男は綺麗だった
その姿はまるで女のように厭らしく、目を細めて笑うその表情は淫らで人を欲情させる
その事を男は知っていたし彼自信その事に優越を覚えていたのだと思う

帯が緩んでだらしなくはだけた体を拒むことなく差し出して、胸まで伸びた黒髪が濡れていた
細くしなるその姿を見て皆、男を
「蛇」と呼んだ

常にどの部屋も満室
蛇の部屋は名の如く長蛇の列をなしていた
客の無い日はない
その日も、どの部屋も満室だった
だけど蛇の部屋はない

こういう日は彼が主人の元にいることを皆知っている
身を捧げる特別な日だと誰かが言っていた

だけど次の日蛇の部屋はなかった
次の日も蛇の部屋はなかった
その次も、その次も
蛇は消えた
あの日を境に蛇は消えてしまった


昔、蛇は俺に泣きながら言った
痛い、止めて、と
その表情に甘美した
悦に顔を染めて
嫌だ、嫌だと繰り返した
突かれて悶え濡らしながら
俺にその行為を見られているのが嫌なんだって
俺に触られるのが嫌なんだって
本当、傷付くだろう

蛇を抱いていた蛇の主人が蛇の名を呼んだ
その時初めて蛇の名前を知った
特別気持ちになって
俺は蛇の本当の名前を知っているんだって
だからその名前を呼んだ
気持ち悪いって言い捨てられたけれど別に良かった
何度も言い続けて
その顔に堪らなく興奮させられた
主人に抱かれて荒い息をあげるその口を優しく犯しながら
愛しくて愛しくて堪らなかった

なのに、もういない
きっと殺されてしまったのだ
可哀想に
綺麗だったのに
手にかけるのは俺の筈だったのに
あの変態野郎のせいで計画が台無しだ
身ぐるみを剥がしてぐちゃぐちゃにしてやっても気分は晴れない
唯一褒められるとすればあの変態は意外にも几帳面だったこと
自分の殺した子供をご丁寧に記録していたりするから無駄に口を聞かずに済んだ
何故だろうね
君の名前がないんだ思わず声を出して笑ってしまったよ
運よく外にでも逃げ出せたのかな
嗚呼、それでこそ俺が愛する人だ
今何処にいるんだろう
会いたいな、会いたいよ
生きてるんだろう

ミチル

prev next
[back]

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -