3 調子が狂わない
 

「会えて嬉しいよ」
「もしかしてこのサイレンってお前か」
「うん、しつこくって。ばらしてもらっても良いよ」
「面倒だからいやだ」
「ははっ有り難う、花也はそう言うと思ったよ」

そう言ってへらりと顔を緩めて笑う。何こいつ、と内心で思った。それはいつもの事ではあったけど、含まれた意味は全く異なっていて俺の目に写る彼は完全に異常者だった。一刻も早く此処から立ち去りたいと思った。彼とは友人ではあったけど、執着とは無縁の人間でしかない。彼には悪いが正直、彼がどうしようがどうなろうが、どうでも良かった。

「こうやっていつも通りに話してくれるし、本当に嬉しいな」

そんなこと言うなよ、いつも通りなんかじゃないとは声に出さなかった。無意識に冷やかな視線を向けているのに気付いて、少しだけいたたまれない気持ちになる。
視線を泳がせて、ちらりと柔らかそうな色素の薄い髪に目が止まり、不覚にも目を見開いた。ブロンドより少し霞んだような色をした髪が肩まで伸びて、華奢な体が力なく寄り掛かっている。何故か、目が反らせなかった。

「病気でさ、ちょっと前に死んじゃって」

どうでも良かった筈なのにどうでも良くなくなっている。早急に立ち去りたかったのにもっと近くに寄りたいと思っている。

「なんでそんな事したの」
「一緒に居たかったからね」
「死んでるんだよ」
「それでもいいんだ、おかしいかな?」
「知らない、でも俺も同じ事をしそうな気はする」
「気なんて使わなくていいのに、本当優しいんだよな花也は」

そう言って今度はハハッと眉を寄せて笑った。サイレンの音が近付いて来るようで太代は遺体を抱え直して立ち上がった。

「じゃあ、俺行くね」
「ああ」

彼は背を向けて手を振った。俺はただ見ていた。姿が見えなくなるのを待って、まるで掴み取れない霧を掻き分けているようそんな心地がして俺はただ動けなかった。



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