2 失踪と日常
 

『失踪したんだってさ、アイツ』

他人事のように噂する。今日最大の注目話題に皆盛り上がらなければ気が済まないのだろう、そこらかしこで同じ話題が耳につく。
購買で買い占めたパンを机に広げて盛大な咀嚼音をさせながら昼食を頬張る友人を横目に今週発売した雑誌に目を通す。それは欄外の小さな記事だった。見出しは頭の狂った精神異常者扱いで、言いたい放題だなと冷やかな視線を向けてしまう。

「太代に会ったんだって?」

一瞬、鼓動が早くなる。結局皆考えることは一緒だ。

「なにそれ、知らないな」
「元気だった?」

花也の意思を聞く気はないようで、真正面でパンを平らげた充が視線を此方に向ける。視線を反らして紙面に戻した。

「相変わらずだったな」
「やっぱりな、様子が簡単に想像できるから怖いわ」

まるで何も変わらない、それが問題だ。その姿が別人の様であったならば、何も考えることはなかった。本当に頭の狂った精神異常者で済み、俺達はいつも通りの生活を送るだけだ。

一昨日の深夜、鳴り止まないサイレンの音を思い出す。彼は幸せそうにその時を確かに生きていた。彼は、暗い路地裏で座り込んでいて、その腕は大切そうに死体を抱き締めていた。深刻そうな面持ちで、彼は俺を見付けると一瞬にして表情を明るく輝かせた。だけど俺は抱えられたそれを見て平然としてられるわけもなかった。



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