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A suitcase
2011/08/29

銃口の真正面に躊躇なく立ち塞がるから傑作物だ。スーツケースに詰め込んだ彼女の躯でも奪い返しに来たのだろうか。
「怒ってる」
「当たり前だろ」
僕は恨まれているのだろうか。でも僕はこれしか知らないのだから、仕方ないじゃないか。
「そんな風には見えないけど」
「お前に言われたくないよ」
僕の指先はトリガーに力を込めたがる。別に怖がってなんかいない。

「撃てよ」
とても冷たい。
「撃てるもんなら撃てよ」
僕を軽蔑しているのか。
昔に彼が吐いた気持ちが悪いという言葉は今でも内蔵を抉り身体を蝕む。

「撃てないよ」
「だと思った」
呆れたように蔑むように笑われた。

もしかしたら彼は知っているのかもしれない。僕がリリカを殺したのも、僕が嫉妬してたのも、僕が君が好きなことも、全部知っていてその上で僕を奔放して遊んで楽しんでるのかもしれない。あれ、おかしいな。彼は全て知っている筈じゃないか。

「聞いていい」
「なに」
彼は僕の横のスーツケースを見つめていた。

「なんで殺したの」

忘れたとでもいうのだろうか。ならば思い出させなければいけない。
思い返せば懐かしい。微笑んだ。

「邪魔なら殺せばいいと言ったのは君だよ、トウキ」


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