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z軸が人を繋げているらしい
2015/07/21

わたしの見ている世界をカメラで撮って見せてあげる。
けれどファインダー越しのそれと、わたしの眼球越しのそれは、同じものを捉えなかった。再現出来ない欠陥品だなと言葉を飲み込んでクソ野郎とだけ近場の空気に八つ当たりをした。
光はどこへ消えた、色の付いた声はどこへ消えた、穴の空いた顔はどこへ消えた、同じものを見ているのにそんなのどこにあるんだよと苛立つ声は絶えず混乱と不安を与え続ける。
世界は個人を挟んで異なっているのかもしれない。世界を地球で例えるなら、それは足元に触れている地面だけが世界だ。細切れに様々に異なって乱立した世界があるのだ。同じ世界で出会えた奇跡に感謝することなんて出来ないのだ。だって世界には自分一人だけなのだから。

そうと思えば実行だ。世界を移動してみよう。
ほら、やはり一歩踏み出せばそこは別世界だ。こんなにも容易く世界は変わる。あんなに怒ってた友達が笑顔になった。鮮やかに咲いた花が萎れて枯れた。幼虫が成虫に変わった。目の前にあったサンドウィッチがなくなった。こんなにもたくさんの世界を行き来して疲れてしまえば一眠りして、また違う世界で目覚める。

元の世界に戻って、乱雑に投げ捨てていたカメラを構えてその先を覗いた。やはりなんの心にも響かないただ風景だった。カメラ越しに、風が吹き抜けて草木が揺れていた。サクラの匂いがする。もう夏なのに。すると、頭の中に細長い棒が飛んできて刺さる。グサリと突き刺さる。がっちり刺さる。おやおや、これはまさかと気が付いた。もしかしてわたしは世界を甘く見ていたのかもしれない。瞳孔が音立てて広がるようだった。匂いはいつだって喧嘩ばかりのわたしのカメラから香っている。

そういえばサクラの匂いってどんなだっけ。


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