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嫌いな言葉は口に出したくないんだよ
2013/03/21

『一方通行が苦しいだなんて喉が裂けたって言わないよ』

そんな事を昔壊して首の取れた人形が愉しそうに言っていた。それは虚勢を張るのが得意だった。

誰かは言っていた。今の私がいるのは彼女がいたからで、これからの私がいるのも彼女がいたからで、私の人生を変えた彼女が幸せになることを願ってただそれだけを願って私は見えない扉に鍵を掛けた。

夜になって胃液が吐き出されて、酸味が口内を犯して、夜がどうしても嫌いだった。彼女と同じ時間を共有してるなんてそんなのって今頃一体誰と、何を、しているのかって口になんか出したくもないけれど、不快感が頭の中をぐるぐると回って抉って、そんなおかしな話で、落ちてきた体が地面を叩いてそれはそれを見て見ぬ振りをするくらい笑えなくておかしな話だった。私は謝罪を繰り返した。この世界に彼女と私しかいなければ良いのに。彼女の死にたいと嘆く声を聞いて私は一人で死なないでと泣いた。代わりに赤みを帯びたナイフを握り締めてそんな寂しいことしないでよと子供みたいに泣いたのだ。彼女はとても体の弱い人だった。

抑えていた感情が耐えきれなくなって思わず口を滑らせた想いは反響して、彼女は有り難うと笑った。それで満たされて、満たされて、おかしいな。それだけじゃダメなのか。足りないのか。じゃあ何が欲しいのかと思考錯誤しようとした頭に手のひらを突き出してそれ以上踏み入れないように思考停止を求めた。理解したら戻れなくなる気がした。知らない方が幸せなこともあるはずだ。

そっと抱き締めて唇に触れる夢を見た。苦しいの代わりに楽しいと嘘を吐く。そして私の一部を入れた扉の鍵を捨てた。一層この手で死なせてあげられたら楽だろうに。
また夜が来るようで、耳を塞いで強く目を閉じた。


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