メイン | ナノ


聖夜の戯言
2013/01/22

何やら世の中はもうすぐクリスマスらしい
この家には明らかに方向性を間違えている赤や白の華やかな飾りが所々に乱れるようにぶら下がっている
というのも偶然押し入れから見つけたクリスマス用と書かれた箱がそもそもの原因だ
クリスマスに敏捷して開けてみれば華やかな西洋風のマスコットや電飾が溢れんばかりに詰め込まれていた
それを興味深そうに見ていた彼女は先程何の気を起こしたのか家中に黙々と飾付け始めた、のが一時間前のこと
だが今はもう飾りつけを全面放棄している状態
戻って来たかと思えば何処にあったのか彼女は赤いサンタクロース姿をしていた
そのまま何事もなかったように炬燵に潜り込みゲームをやり始めている
片付けは一体誰がするのだろうかと疑問しかない
ミチルは奥の方に眠っていたクリスマスツリーを組み立てながらそんな彼女を眺めていた
「雰囲気が一変したね」
「これはこれで趣深いから問題ない」
「でもこの天井のうねうねしてる布邪魔じゃない」
「じゃあ取っていいよ」
「そうやって片付けさせる魂胆か」
「そうそう」
クリスマスはケーキ食べたりプレゼント貰ったりするって誰かが言ってた、そんなことを彼女は言っていたけど残念ながらクリスマスを知らないミチルにとってはまるでイメージがつかない
たぶん言動からしてそれは彼女も同じなのだろうけどまあ分かったのはクリスマスは赤と白が好きって事ぐらい

「ミチル知ってる、クリスマスは恋人と一緒に過ごすらしい」
それは可笑しな話で
「だから私にクリスマスを与えてくださらなかったのか」
突発的に白けた自分がいるのは間違いなかった
だからなんだと冷たく言い返す未来を自動的に抹消
彼女はぼんやりとしていた
たぶん浮かれていたのだ
失言にすら気付いていない
珍しいこともあるもんだなと思った
くださらなかった、と彼女は言って気にすることではないけど
ただそれだけで口に出さなかった人物に心当たりが出来てしまう自分に嫌気がさす
時間を巻き戻して耳を塞いで聞こえなかった振りをして、何も聞こえなかった事が事実だと刷り変えればいい
幻想だ
「嘘だよそんなの」
箱を開けてしまったのがいけなかったのだ
いつも通りに過ごしていれば良かった
そうすれば必要ない事まで知らずに済んだ
お互いを知り過ぎると生きづらくなる自分だけで精一杯なのに
お互い過去は全て忘れてしまった、それでは駄目ないのか
傲慢なのか独り善がりなのか
後悔が思った以上に大きくて動揺している
飾り付けていたツリーを静かに解体する
投げ散らかしそうになるのを抑えた
例えばその日に何があったとか
どうだって良いことだけど彼女の場合はそれがあまりに重過ぎるから嫌なんだ
彼女の話が真実ならその日はいつもと変わらなかった
寧ろ厄日だった
それこそ最もどうだって良い
「そうかも知れない」
彼女は呟くように言った


「悪いミチル、嘘を教えてしまったようだ」





prev | next
back