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溺愛ディケイド 「ぶっちゃけ……痛々しいんですよね、先生」
2013/02/15
「僕が?」
放課後の静まり帰った教室で暗い影が落ちていた。苦しいと叫ぶ表情に鈍器で殴られたような痛みが響く。
意味が分からないとでも言うに彼は首を傾げた。痛い。すごく痛い。
「いつも上の空だし、空っぽの水槽を見れば悲しそうな顔する。もう一層、死んでくれればいいのに」
後悔は無いけど、微かな罪悪感が胸をつつく。俺はいつも困らせてばかりだ。
先生はその場に立ったまま何も言わずにいて、そっと頬を掻いた。
「じゃあさ、その前にお願い聞いて貰ってもいいかな」
何故か彼は照れたように笑う。
「淡水魚が好きなんだよね、僕」
生物準備室の寂しい水槽が思い浮かんで、なんだそういうことかと馬鹿な自分を呪いたくなった。きっと赤いであろう顔を両手で隠して、直ぐにでも逃げ出したくて堪らない。
あの金魚はもう何処にもいないのだ。とっくの昔にあいつは食物連鎖の輪の中だった。
「手強いよ、先生」
「さて、何のことかな」
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