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黄昏の森
2013/01/20

部屋の床に穴が開いた。
その穴に落っこちた。
落ちている途中は真っ暗で何も見えなかった。
体があらゆる方向に曲がって両手が取れた気がした。


目を覚ますと見知らぬトイレの個室にいて、体はいつもと変わらなかった。
足元や壁は赤黒く汚れている。
鉄とカビの臭いがした。
私はそっと扉を開けてトイレを出る。
外は既に日が落ちていた。

暗い森の中だった。


「戻っても悲しいだけだよ」

「一体何があったの」

声は何も言わなかった。
気付くと左側の森が拓いて道が出来ている。
その道を歩いた。

「戻ったら君は消えてしまうよ」

「どうして?」

道の先から明るい光が見えた。一軒の家から漏れる光だった。

「見ない方がいい」

私は光に引寄せられるように家に近寄った。
すると一人でにそっとドアが開いた。




彼女は消えてしまった。
行方は誰も知らない。
彼女の部屋は異臭を放って目も当てられない現状だったそうだ。
食事の途中だったような形跡の傍に千切れた腕が二本残っていた。
手首は傷だらけで縛られたような痣があった。




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