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孵化します
2013/01/17

僕は人間を辞めます。温かい殻に篭って孵化を待ちますから誰も邪魔はしないで下さい。
するとそんなふざけた逃避は止めろよなと些事が投げられてコツンと僕の脳天を叩き、割れた頭蓋を見て人間は早く出て来いよとばかりに掬い出そうとするのです。だから叫び出したくて堪らないのです。

「起こしては駄目だよ。目覚めほど残酷なものはないからね。」

震える心臓を摘まみ上げて笑いたいくらいでした。何度も突き立てた銀色は三年の月日を経て褐色へと変色したのです。

「鋭い方が痛みなく裂けるんだ。だからこれをあげるよ。きっと楽になれるから。」

僕に包丁をいれるのは誰ですか。起こさないでと言ったのに。ぬめっとした液体が漏れ出して堪らず髪の毛を押さえました。

「嫌だって言ったのに。嫌だって言ったのに。嫌だって言ったのに。」

お腹に突き入れられたそれを感じて僕は心からほっとしたのが分かったのです。

ようやく孵化は終わりました。



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