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Happy Birthday
2012/11/30

アイツは何がしたいんだ、一体コイツに何をさせたいと言うんだよ。こんな事を繰り返して、お互い傷付け合ってるだけじゃないのか。



「トウキ?聞いてるの」

「ごめん聞いてなかった」

俺の隣にいる彼は、少し眉を寄せて怒った振りをしながらそれでも楽しそうにしている。箸で摘まんだ卵焼きを俺の方へ持ち上げて、食べろとでも言う気なのか。構わず顔を背けてテーブルに置いてあったリモコンを掴む。番組を変えてみるけど、どれもこれも面白味に欠けて意味もなくボタンを押し続けた。

「でさ、今日何かあった気がするんだけど思い出せなくって」

「誕生日とか」

「うーんそうなのかな、それすら分からないんだ」

いつまで経っても反応のない俺に近くまで運んできた箸を諦めた様子で自分の元へ戻して、渋々と自らの口内に放り込む。
とんだ茶番だと思った。何もかもを忘れている。考えるだけで頭痛がしてくる。こいつがへらへらと笑っているのが不愉快で堪らなくて、今にもその顔面に包丁を突き刺してしまいたい。

「誕生日って言ったら明日、リリカの誕生日だろ」


食器が割れる音がした。そして痛み。手元で血が湧き上がるのが見えた。立ち上がった奏が酷い形相で此方を見てる。右手に握られた箸が俺の左手の甲に突き刺さっていた。これは完全な俺のミスだ。最近は馬鹿みたいに普通な生活を送っていたから、感覚が麻痺して気が抜けていた。間抜けな話だ。唾を飲み込んだ。

「聞こえなかったんだけど、何?」

「何も……言ってねえよ」

「そう、ならいいや」

そう言って表情を一転させて笑ってみせた。そそくさと席を離れてリビングを出たと思えば、絆創膏を手に持って戻って来る。箸を当たり前の様に引き抜きタオルで押さえつけて、暫くして絆創膏を張られる。そして何事もなかったように席についた。だけどテーブルの下は割れた食器の破片が散らばって、先程の光景とは明らかに違うから何もなかった振りは不可能だ。

「地震かな」

なんてとぼけてみせるから、またこれだよと頭が痛くなる。あまりに茶番過ぎて、違うだろと声を上げて叫び出しそうだ。けれどそんなこと死にかけても言わないだろうし、結局俺はその茶番から逃れられないのだ。俺は立ち上がり割れた食器を片付ける。左手が鈍く痛んでしかたがない。

「僕がやるからトウキは座ってて」

「いいから少し黙ってろよ気持ち悪い」

空気が張り詰めた。分かってる、今俺は最低な事を言った。言って良い事と悪い事ぐらい判断出来きなければならない。今のは完全に後者だ。奏は驚いた顔をしている。ざまあみろと思った。少しぐらい良いだろ。だってこいつはもっと最低な奴なんだから。

「いや嘘、有り難う」



言ってる事とやってる事が違うんだ。もう俺は駄目かもしれない。


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