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あの場所で私も首を絞めた
2012/10/05

見慣れた古くて汚いだだっ広いトイレの個室で彼は血だらけでぐったりとしていた。私はその人を必死で探していたから見つけたときはとてもほっとした。だけどまさに死にかけの状態だったから安心なんかしてられなくて急いで駆け寄るとその体はひどく冷たかった。彼は諦めたように笑って、私はひどく悲しくなった。
この惨状を引き起こしたのは私だった。交通事故で運悪く鉄の棒が彼の左目に突き刺さりそれを私は抜いてしまった。血が溢れ出して止まらなくなった。ひどい出血だった。
掠れた声でやっぱり死にたくないと彼は小さく泣き出した。笑ったのはただの強がりだった。助けを求めるように伸ばされた手を力強く握り返した。
一緒に探しに来ていた人に彼を背負って、保健室に連れていってもらい私はそこの保健医を探しにいった。
廊下を曲がってすぐの所に白衣の目付きのキツい女性を見つけた。髪を頭上で一つに結び腰まで伸びている。睨んでいるのかもともとそういう顔なのか分からなかった。そばに小さな少女を3人連れていた。ナースキャップを頭にのせて柔らかな白い服を纏っている。事情を話すとすぐに保健室に向かってくれるらしい。後を追おうとして角を曲がると彼女たちはもういなかった。
私が保健室に着くとそこは賑やかだった。テーブルにはホットプレートで焼肉が行われている。保健医と少女もいた。差し出された皿を受け取って、私はそういうことかと理解した。


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