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軽薄で淡白な諸事情により
2012/08/27

昔に太陽が綺麗だと彼女は言っていたけど俺はそうとは思わない。そんなことを言ったら怒るだろうか。右手に持った煙草を口許に運んで一服すると立ち上がる。
「もう帰るの」
「ああ、帰るよ」
全裸の女が問い掛けた。誰だろうこいつ。知らないやつだったけどそんなことは大した問題じゃないと思えたので、脱ぎ捨ててあったシャツを拾い上げる。ボタンを簡単に止めると丁度良く携帯が奇声を発した。どうしてだろうね。あの子は妙に勘が鋭い。
「なに」
『早く帰ってきて、会いたい』
「どうして」
『会いたいから』

( 見も蓋もないことを。 )

「わかったよ」
『何処にいるの』
「会社だよ」
『嘘』

「あたり」
『嘘つき』

「でもすぐには行けないよ」
『待ってるから早く来て』
「わかった」

携帯を閉じると先程の女と目があった。本当に一体誰なのだろうか。

「彼女?」
「まあそんな感じかな」
「曖昧ね」
「面倒だからね」
「正直ね」
「嘘つきとよく言われるんだ」

渇いた笑みを浮かべて俺を見る。少しだけ好感を抱いた。白々しさが心地いい。

「彼女怒らない?」
「どうして?」
「他の女といるから」
「よくわからないな」
「普通嫌でしょ」
「どうかな」

俺も似たように笑ってみる。笑うのは得意だったりする。ネクタイを締め上着を来ると最後まで素性が分からなかった綺麗な女に背を向けて手を振った。

「普通じゃないからね」

( あの子と、俺は )



例えば人間が1としたら彼女きっと−100。ご飯をたべるとしたら彼女は箸を食べだしたりして。なんてくだらない冗談が楽しくて仕方がない。

「遅いよ」
「走ってきたよ」
「そのわりには涼しそうね」
「歩いてきたからね」
「嘘つき」

( 人のこと言えんのかよ )

俺の中で誰かが言う。誰だろうこの口の悪い人。靴を脱いで部屋に上がればいつもと変わらない自室だ。

「今日は彼氏いないの」
「用事あるんだって」
「へえ」

彼女は俺に近寄る。なんとなくわかった気がした。いつもの事だけれど。

「抱いて」
「どうして」
「寂しいから」
「他は」
「今日はお兄ちゃんがいい」

俺は彼女の兄だ。正真正銘の血の繋がった兄妹だ。だからどうした。

「薬飲んでないでしょ」
「いらない」
「だめ、飲んで」
「いやだ」

彼女は執拗に性行為を求める。自分自身を傷付けるため執拗な性行為は別に珍しい事ではないし、それについては俺自身理解している。理解しているが故に彼女を傷付けることを俺は出来ないでしょう。ね。

( たいようがむかえにきてくれるの )

ああそうだね。俺の脳内で誰かが暴れ狂う。昔に太陽が綺麗だと彼女は言っていたけどやはり俺はそうとは思わない。だって太陽は彼女を連れていこうとする。太陽が嫌いだ。彼女の好きな太陽が嫌いだ。

「俺らキョーダイ」
「どうでもいいでしょ」
「いやいや」
「子供作るわけじゃあるまいし」
「確かに」
「だからほら」

服を脱ぎ捨て露になる彼女。俺は今どうしているんだろう。

「いい子」

( 生意気 )

内心とは裏腹に俺の体は従順だ。
彼女を傷付けたい訳じゃない。傷付けたいだけだ。どっちだよ。俺は疲れきっていた。彼女の面倒を見るのにはもう懲り懲りなんだ。嘘だよ。大好きだよ。薬が切れて彼女はまた何処かへ行くだろう。どうか行かないでくれ。俺が太陽を殺すまで傍にいて。なんて。


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