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透明な少年と棺の中の貴女
2011/07/29

俺は目を瞑った。棺に収まった貴女を見て喉の奥で暴れた空気を吐き出す事はせずにただ昔の貴女を想う。

気味の悪い子ね、と頭の悪い貴女は言った。痣がまたひとつ増えて、切れ味を確かめて貴女のための俺を体内に隠し持つ。殺してやろうかと思った。でもたまに見せる貴女の笑顔に心揺れて、隠したままにしておいた。

時折考える、血塗れの虚構。見開いた眼球が俺を捕らえて離さない。刃物を幾度も突き刺して、死ねと繰り返す。裸の電球に照されて肉に集った虫の群れを見た気がする。無くなった俺は早く殺しておけば良かったと後悔した。

棺の上に腰を下ろして昔話をしましょうか。眠ったその顔はとても綺麗だった。貴女は俺が嫌いで、煙草の煙が俺の肌に触れてそっと、押し潰された。俺は泣いた。

俺を殺した貴女は暫くして自殺した。貴女は最後に「寂しいよ」と俺の名前を呼んだ。今更そんなこと言わないでよ。貴女の部屋で見つかった俺の首は大事そうに貴女に抱えられていた。


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