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だってほら、見えないから
2011/08/26

投げられた何かが俺の頭部を捉えたと思ったらポタポタと流れ落ちてくる赤い液体に暫く呆然とした。そして慌てた彼女の姿が視界に飛び込んできて我に返った。彼女は素早い手付きで俺の頭をタオルで押さえ込むと小さく私が悪かったと呟いた。普段は横暴で自分勝手で我が儘で自分が悪いとは認めないお嬢様のような彼女が躊躇いもなく謝罪の言葉を口にしたのだ。そして俺を庇うなどと異様な光景に目を疑った。嘘みたいに優しい彼女に今までの扱いは一体何だったのかと疑いたくなる程であった。タオルの隙間を縫って流れ落ちてくる血液は大きく地面を染めてゆく。頭部に伝わる温もりや頬を伝った軌跡を拭い去る力強さが、とても心地よかった。大事にされてるのだと実感した。殴られてよかった。温かな愛情を感じて俺は泣いた。


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