(なーんか、嫌な感じ。)

だって彼はこんなに容易く俺を抱く。躊躇いなく俺に口付けし、時に泣きながら愛を囁き、ぴったりと身を寄せてくる。そんな真っ直ぐな彼に比べて俺はというと、何度身体を重ねても消えない羞恥と戦い、簡単に好きだと言えない自分に落胆し、それでも身体を重ねたくて悶々としてしまうというのに。
綺麗に生きるということは、狡くて素敵なのだと痛感させられてしまう。

「レン」

お前がそう呼ぶたびに、俺の胸は張り裂けそうになる。

「好きです」

そう紡がれるたびに、涙が溢れそうになる。

そんな事は絶対に言ってやらないけど。いや、言いたくて仕方ないのだけれど、曝け出すにはとても勇気がいるのだ。
今まで軽い気持ちで好きだと誰にでも言ってきたツケなのか、本当に好きな人には何も伝えることが出来ない無力さに俺はまた顔を隠した。
狡いんだ、イッチーは。
自分の気持ちと俺の気持ちを一緒だって、頑なに信じていて、疑っていなくて、壊れるなんて可能性を微塵も想定していなくて、だからこそこうして、俺に目一杯愛を囁く事が出来て。

「も、やだ…っ」

否定の言葉を叫ぶことでしか、俺の胸は軽くならない気がして。
でもこの言葉だって本心じゃないと察してもらえると分かりきっていて。
こうして、言い訳ばかりが増えていって。
一番狡いのは自分だと気付くのだ。

「嫌でもいいです。レンにはいつも、無理をさせていますから。ですが…好きな人を抱いていて、自分を抑えられるほど、私はできた男じゃありませんよ。」

そうやって額にキスを落とし、またお前は俺を甘やかす。だから俺は足取りが覚束ないまま、お前に寄りかかって歩くしかない。そうして寄り添いあう事が嬉しいのだろう。お前は決して俺から離れようとしない。だからまた、俺は足を取られてお前に嵌っていってしまうのだ。
怖い、この温もりが離れるかもしれない瞬間が。
寒い、この肌が離れる一瞬でさえも。

だけど嬉しい、この人を独占できる、今が。

そう思ったら、口から言葉がするりと飛び出した。

「いや、じゃ、ない…から。」
「…?」
「もっとトキヤの、好きにしていいから。」
「っ…!」

彼の綺麗な瞳が、キラキラ瞬く。まばたきをするたびに、頬に熱い雫が降り注ぐ。あぁ、もっと早く、言っていればよかった。
こんなにも嬉しそうな彼の顔を見れるのならば、もっと早くに。

「遅くなって、ごめんね…?」
「…いえ、待つのは、好きですから。」
「ちゃんと好きだよ、イッチーの事が。」
「もう呼んではくれないのですか?先程のように。」
「…また今度、ね。」

待ってます、と泣きながら笑う綺麗な人に、狡いやつめと言葉を一つ。
そして好きだという代わりに彼の目元をそっと拭って俺もにっこり、笑ってやったのだ。


 




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