「しょ〜こ!お疲れ〜!!元気ぃ〜!?」
医務室に“私”が突入していく。はしゃいでる大人って不気味と野薔薇ちゃんが言ってたけどマジにそうだった。普段出さない声、走っていく体のフォーム、録音した自分の声を聞いたような気恥ずかしさがある。
廊下の窓ガラス越しに見えた硝子ちゃんは、明らかに普段と違う私に対して怪訝そうに眉を顰め「オマエ五条だろ」と冷めた声で突き放した。

「こんなすぐバレることある?」
「邪悪さが漏れてる。先輩は?」
続けて私も医務室に若干中腰で入る。ドアの枠が今1番こわい。
「お疲れ、硝子ちゃん」そう言うと彼女は目を見開いた。
「えー……五条の腰がイカれたらこうなるんですか」
「いや関係はなくて、この身長はありとあらゆる所にぶつかるのでめちゃくちゃ怖い。の中腰」
今、私の意識は五条の体の中にあり、五条の体を体験している。
10年以上近くにいたせいで自分が思っていた五条のデカさと、本当のサイズのズレが大きすぎて、ありとあらゆる所にぶつかって、時間経過で慣れては来たが、怖いものは怖い。

「先輩と五条の中身が入れ替わってる?……なんか変な呪詛師にでも会ったんですか」
「僕が昨日の任務で捕まえた呪詛師がさ、人と人の意識を入れ替えるって荒稼ぎしてたんだよ。アイドルとファン、社長と社員、愛人と本妻、そんなのを入れ替えたりしてね。大ボラ吹いてんなと思ってたけど、マジでできたから僕と先輩を入れ替えてもらったの」
私の体に入った五条は椅子に座って足を組んでのけぞる。手足が長い五条の癖だが私がやると態度がすごいデカい。五条がやる分だと体がデカいなとしか感じないのに。

▼ ▼

15時過ぎに廊下の切れた電灯を交換していたら「先輩ちょっと来て」と五条にかるーく呼ばれたので、かるーくついて行った。
「まずトイレに行こう」と最初に10年ぶりくらいに人に誘われてトイレに行った。あまり嬉しくない久しぶりだけど、今考えるとこの気遣いにはマジに助かってる。入れ替わる前のマナーとしては100点だ。何も説明せずにいきなり入れ替わったから-100点だけど。
そして捕縛された呪詛師が勾留されている牢に向かった。怯えて牢の隅で縮こまっている呪詛師に「オイ、僕とこの人入れ替えてみろよ」と五条が煽り散らかし、結果コレである。
呪詛師の震え声の呪詞が終わると五条と私の意識は入れ替わり、呪詛師はビビって吐き、私は五条の声で悲鳴を上げた。

なったものは仕方がない。牢を出て医務室に向かう途中で、窓の上の小さな縁、ちょっとした小高いものの頭の上、吊り下げ照明のカバーの外側、自販機の上、とにかく埃だらけの場所が驚くほど視界に入った。
ホコリくさ。と五条がよく言うのは、掃除が行き届いた家で育ったからと思ったけど違った。五条が吸っている層は埃が多いのだ。入れ替わって1番にそれについて謝った。

「この状況で1番に言うのそれ?わっ五条の体たくましいかっこいいとか言ってよ」
「変な声真似しなくても今1番私に似てるのは五条だよ」
斜め下を向くと、私がため息をついて、私の体で私の太もも揉んだ。五条は胸が好きだけど、脚も好きなのである。自分の頭蓋骨を割らないようにチョップしたが、自分の丈夫さにも驚いた。

▼ ▼

「これは先輩にオマエが入ってる以外は害が無いよな?」
「呪詛師が言うには、魂から自己認識に必要な記憶を最小限引っぱり出して、それを対象の魂に一時的に宿してる。あとは魂の間をつなぐことで記憶情報を必要な時だけに行き来させてる感じ。移動させてるのはあくまで記憶だけ。術式は移動できないって話。聞いた感じと呪力の動きは合ってるかな」
「なるほど。自己認識は記憶依存だからな。でも強い縛りとかあるんじゃないのか?」
「当たり。だから僕達の入れ替わりは2時間だけだし、色々とできないこともあるよ」

自己認識に必要な記憶がどこかは不明だが、確かに頭がボケている。今日の昼食、さっきまで入れ替えていた蛍光灯の作業本数も思い出せない。それだけではなくいつもは思い出せる中学の担任の顔、友人の名前も思い出せないが存在は覚えているし、時間をかけて記憶を探ることで思い出せる。この絶妙な記憶の取捨選択が自己認識に必要な部分で、思い出しのラグが魂の情報の行き来なのか。あの呪詛師捕まってよかった。
しかし人の体になるって不思議な気分だ。最初は急に大型トラックの運転を任されたような感覚になり、ぶつかってばかりだったが、廊を出た頃には感覚的に手の端、足の端など体の座標をなんとか掴めた。しかし全く慣れないのがこの膨大な呪力。例えばお腹がいっぱいの時、いっぱいだという感覚を胃の膨張感から自覚し、空腹はその逆になる。術師はそんな感じで自分の呪力残量を感じているが、五条の体は残量がまったくつかめない。胃の感覚のようなものが存在しないのだ。呪力が漲る、枯渇しているとかが無く、ただ漠然と呪力を感じる。私の術式なら家100件とか余裕で建てられそう。

「それにしても有効時間が短すぎるよね。これじゃ何もできないよ。よくあるじゃんエッチな漫画でさぁ、あんなことやこんなこと」
「私が死ぬようなことはしないでね」
「しないしない。実際こんな漫画みたいな美味しい展開になっても、この時間じゃあんまりしたいことが浮かんでこない。嫌いなヤツ相手なら山程浮かぶけど」
五条が結構健全で助かったが、私の顔をくるくる変えながらスマホのインカメで自撮りをしながら言われると説得力に欠ける。五条、そういう顔が好きなんだ。確かにしないなそんな表情。しかしそれ私のスマホだから後で消されるんだが、と思っていたら尻ポケットから音がした。転送すな。消した。

「私の体、五条には窮屈でしょ」
「いや興奮するけど。冗談。高専1年の頃の感覚に近いかな。懐かしい」
五条はそう言いながらゆったりと歩いてくると、私の膝の上に乗った。
「うわ!私!!柔らか!!」
「でしょ?僕がベタベタする理由わかるでしょ」
「これはわかる。私の体は筋肉でガチガチだと思ってたんだけど、男女ってこんな違うんだなあ」
「先輩はわかっちゃダメですよ」状況に慣れて報告書を書き始めていた硝子ちゃんがパソコンから顔を上げた。
五条はひとしきり私の体でベタベタしてくると、口元に手を当てて考え込んだ。
「どうしたの」
「……精神にたやすく左右されるものがないって素晴らしいね」
「カッコよく言ってるけど股間の話だろ」
「先輩も驚かない?股間のナニにさ」
「もう股間の話やめよう。着地点がわからない」
「そう?僕はあと1時間くらいしたいけど。話し戻すと、先輩の体でしたいこと……先輩のスマホの電話帳に載ってる知らないヤツに片っ端からかけて、あっコイツ先輩ねらってんな。ってやつをピックアップするとか?」
「それはマジでやめろ!!股間よりマズい!!」
五条からスマホを取り上げようとした所で、重たく早い足音が遠くから近くに響いてきた。

「うわ!なまえさん何やってんの!?」
パンダくんに抱えられた野薔薇ちゃんが医務室に入って来て、悲鳴みたいな声を上げた。野薔薇ちゃんから見える私は、五条の太ももの上に座って、首に抱きついているんだからそう言われても仕方がない。
「野薔薇ちゃん!!お疲れぇ!!」五条が元気よく言う。
「…………オマエ、ゴジョ先だろ」
「秒でバレてんじゃん」
「やっぱにじみ出てるかな。僕のカリスマ性が」
2人に事情を説明すると、へー……とすぐに理解された。話しが早くて助かる。
「……ってことは、ゴジョ先の中がなまえさんですか?ダメですよちゃんと嫌がらないと」
「すみません……」
「その声で謝られると変な感じ」
「悟って人にちゃんと謝れるんだなあ。感動した」
「パンダ、それ僕のカウントに入れないで」
「いや五条のに入れてもらった方がいいんじゃない?」

野薔薇ちゃんは「なまえさんの体で変なことするなよ」と五条に言うと、硝子ちゃんと一緒に処置室に入っていった。パンダくんと訓練してて、投げられた先の地面にあった尖った石が腕に刺さったらしい。
私は五条を下ろしてパンダくんの前に立つと、彼が小さく感じる。おむつをして高専の中を駆け回っていたパンダくんは、すくすくと成長してしてしまって、小さいのは一瞬だったな。
「パンダくん、ちょっと抱っこしてもいい?」
「嫌だけど」
「ごめんごめん」
「人の話聞かない所が感染ってないか?」
パンダくんを抱き上げる。五条の腕力がよく分かる。手の長さ、太さ、地に根を下ろすような体幹の強さ、腰から上がどんな動きをしても動じない下半身の安定感。
「き、気持ちいい……この体……」
「俺を抱っこして悟の声で変なこと言うのやめろよ」
「ごめん……すごい……パンダくんがこんなに軽いなんて……今何キロ?」
「最近計ってないけど、100キロは超えてる」
「すごいめっちゃ軽い……無印の人をダメにするソファくらいの重みしかない」
「その例え嫌だな……もしかしてなまえの体に入ってる悟からなら、俺たちは1本取れる可能性があるのか?」
「あるんじゃない?今の五条は呪力総量も術式も、私の体にあるものしか使えないからね」
「それだ!!」
処置室のしきりカーテンを荒々しく開き、野薔薇ちゃんは大声を上げた。
五条は学生と訓練して一方的にボコったり、無茶振りしたり、約束破ったり、五条にとっての自然な発言が煽りになり、五条にとっての軽口が怒りの導火線にガソリン巻いて火をつけていたりで、学生達から後腐れのない爽やかな恨みをかっている。

「いや無理だと思うよ」
静かにしてるので何か良くないことをやっている、と思っていた五条がやっと反応する。一緒にスマホの録画を止める音がした。何撮ってるんだよ。
「なまえ先輩は実質1級だよ?野薔薇やパンダより全然強い。でもまあ、1本取れたら何でも好きなもの奢ってあげようかな」
「よし!すみません!なまえさん!!クリスマスコフレ5ブランド分!!」
「呪力を回してない頭を金槌で打たなければ死なないと思うから、それ以外ならどうぞ」
「了解!」
野薔薇ちゃんはグラウンドに向けて走っていき、パンダくんもやる気のない走りで後を追い、五条は打席前のイチローみたいに股割りストレッチを始めた。
「明日は任務あるから呪力は派手に使わないでね。多分五条基準だと驚くほど呪力無いから」
「勿論。体のガード程度にしか使わないよ。縛りプレイを楽しみたいからね」
この自然さが、学生達を、煽っている。
「私もちょっとやってみようかなあ、無下限呪術」
「使わない方がいいよ。いつも出力制御にかなり気を遣ってるんだよね。その辺の制御は僕が意識的にやってるから、多分先輩が使ったら無制御に術式が出てこの辺り消し飛ぶと思う」
先輩の体、柔らかーと言いながら背筋を伸ばすついでにメッチャクチャ怖いこと言うな。作った掌印をそっと崩した。
「しょうがない。外に出かけてモテる男の視線を受けてくるか……」
「待って!ガワは僕とはいえ中身先輩が逆ナンされるのは腹立つ」
「えー……お、重て〜」
「私わりと束縛する女だから」
「私が言ってるみたいにすんのやめろ」

▼ ▼

五条が私の体を使っても、学生に対して圧倒的に強いことに変わりはなかった。
五条と私では体の使い方が基本的に違う。四肢の太さ、体の大きさがある分、五条は攻撃を受ける時は弾いたり、受け止めて反動を相手に返している。例えば大木に生身の人間が突っ込んだら、硬さと衝突反動でダメージを受けるだろう。そんな感じ。私の場合は来た攻撃を受け流し、体勢を崩させて隙をついて打撃を入れるタイプだ。
五条は私の体をどう使うのだろうかと思ったが、私の戦い方は即模倣されて、私の受け流しに普段の五条の攻め方が乗っている。エグい。虎杖くん、伏黒くん、真希ちゃん、狗巻くんも加わって戦っているのに、流れ作業のように学生達を投げ飛ばしている。
普段学生の相手をする時の五条は、サングラスやアイマスクをしたままなので分からないだろう。でも私の顔に変換されるとバレる。「破顔」の例として辞書に載りそうなくらい楽しそうな笑顔だった。
「笑顔で投げんな!」と真希ちゃんが怒る。でも五条からすれば、こんなのじゃれ合いなのだ。愛でている可愛い学生との楽しいじゃれ合い。学生は本気で行っても、五条の実力の1割にも触れられないのだから苛立ちが貯まる。せめて笑うなよと思うけど、その強さのせいでそれが思いつかない五条は、きっと訓練の最後に満身創痍でブチギレてるみんなをみて「なんか怒ってる?」と絶対言う。

「なまえ、見学か?」
学長が視線は五条達に向けたままで、怪訝な顔で歩いてくる。確かに学生達をぶん投げる私は見慣れないだろう。
「お疲れ様です。入れ替わってる件について聞いてましたか」
「ああ、いつ頃戻るんだ?」
「あと1時間くらいですね。2時間だけの縛りとはいえご迷惑おかけしてませんか」
「悟の顔で丁寧に話されると奇妙だな……」
「悟は結構まともじゃないですか。挨拶ちゃんとしますし。遅刻はちょっとするけど無言すっぽかしは絶対しませんし、敬語だって使いますよ」
「……何かもっとまともなエピソードはないのか?」
「そうですねえ……」


高専の頃、同級生と喧嘩したことが1回だけある。高専4年のときだ。
彼女は補助監督志望で、ある日、実習的に私について補助監督業務をやってくれたのだが、任務中に彼女は帳の中に入ってきて呪霊から結界術で私を守ってくれた。
任務終了後に私の口からでたのは「なんで中に入ってきたの!」だった。彼女は半泣きで「心配だったからに決まってるじゃん!」と返した。
彼女が心配する気持ちも分かる。その時の任務は人命救助だったが、なかなか救助者が見つからないし、事前調査に無かった1級呪霊はいるしで、任務終了予定時刻から1時間も過ぎていたから。しかしその時の私は、結界術を展開している彼女の側を呪霊の爪がかすめたことで、彼女が死ぬ恐怖と、ギリギリ助かった安堵が入り交ざり精神が高ぶって「それでも入ってきたらダメじゃん!」と怒ってしまったのだ。そのせいで喧嘩になった。
彼女の助けたいという気持ちは分かる。でもそれを肯定すれば彼女はまた同じことをしそうだと思うと悩む。しかも任務もあってなかなか謝れなかった。目が合ってもお互い気まずくて逸らす。

それが1週間も続いた頃、学食で五条に「なんか4年の人と喧嘩してね?」と聞かれたのだ。かいつまんで話すと「それはなまえ先輩は悪くないでしょ」「弱いのに入ってきた方が悪い」「実際、失敗したら救助者が1人増えたわけだし」「補助監督が術式使っての応戦が厳禁なのも今回みたいな例を出さないためだし」「ちゃんともっと言ったほうがいい」と同級生を責め立てた。

「弱いのに前に出られると面倒だね」
「それはちょっと、言い過ぎじゃあ……あの子は」

私が言い返そうとした所で五条の口角が上がった。その笑顔を見た時、気が楽になった。あの子は必死で、決まりなんか理解しても、でもこんな気持ちだったのだと。
「ちゃんと話し合った方がいいよ」
その一言で話しを切り上げると、五条は日々の他愛の無い話を始めてくれた。私はその後すぐに彼女に謝って仲直りをした。


「それはまともなのか?」夜蛾先生が渋い声で言う。
「いい話ですよ」
「単純にそれは……悟の口が悪いだけじゃないのか?」
「いやいやいや」
確かに笑顔で学生をぶん投げ続けている今の五条を見ていたらそう思うかもしれないが、五条悟はみんなが感じてる以上に、みんなのことを想ってる。……あの時の記憶って私の自己認識に必要な記憶なんだな。
着信音が聞こえた。スマホを取り出すと硝子ちゃんからだった。これは取ってもいいだろうと出ると『まだなまえ先輩ですか?』と彼女が尋ねて来た。
「まだ1時間くらいはね」
『いいものあるんですけど、面白体験しません?』

▼ ▼

目の前がブレた、と思ったら夕暮れのグラウンドが視界に広がる。その枠外から飛んできた蹴りを右腕で止めると、四肢の座標が一瞬で狭まった。息苦しさを感じると同時に呪力残量が下っ腹にある。
「待った!戻った!!」
「え、マジですか」
蹴りの体勢を崩して着地した伏黒くんがじっと私の顔を見て「解散です」と全員に呼びかける。みんな低く長い、残念そうな母音を口から漏らしながら寮に向かって行った。
「顔みて私か五条か分かるもんなの?」
「分かります。やっぱ表情違いましたよ」
「……1本だれか取れた?」
「誰も。だからなまえさんと五条先生が戻るときのラグで1発入ったことにしてくれませんか」
「言ってはみるよ」
「ありがとうございます、お疲れ様でした」
「伏黒くんもお疲れ」

任務着を叩いてみるとボロボロと泥が落ちてくるけど、跡残りしそうな痣も怪我もなく、そして呪力もほとんど減ってない。体を守るための最低限の呪力使用、その使い方を体が覚えてないだろうかと呪力を回してみたけどいつもとほとんど変わらない。あの世界全部が手に入りそうな高揚とめまいに襲われる、世界との境界が曖昧になる呪力。もうちょっと感じられれば私まで1段上がれるような気さえした。あ、アイマスク外して六眼も体感しとけばよかった。
グラウンドの端に安全のために置かれた私のスマホを回収して、送信履歴とカメラロールを確認するが、あれだけ色々撮っていたのに送った記録が五条の端末しかない。アプリも新しくなにかダウンロードされた記録がない……が、ブラウザの検索履歴を見ると知らないオンラインストレージへのアクセス履歴があった。……まあいいや仕返ししたし。

医務室に戻ってみると五条はベッドにぶっ倒れていた。頭の左右にしか隙間がないベッドに腰を下ろすと、五条がアイマスクを上げてこちらを見た。
「僕の体で飲んだでしょ」
「下戸体験ありがとう」
もらったはいいが家に帰れないのでずっと部屋に置きっぱなしにしていた硝子ちゃんの日本酒を、五条の体で飲んだ。ペットボトルのキャップ5杯飲んだところで、抗えない眠気とふんわりとしたハイに襲われる。これが下戸。すごい。全然頭が回らないのにすごく何かが面白くて、とにかく眠い。ベッドに横になったところで入れ替わりが終わったのだ。
「お持ち帰りしてよ先輩」
「抜けるの早いでしょ。いつも2時間もすれば元に戻ってる」
五条は下戸だけど、飲んだ時もその後も頭痛や吐き気みたいな不調はなく、さっと2時間くらいで「目が覚めた」と言って戻ってくる。だから五条は楽しい飲み会でかなり酒を警戒する。うっかり飲むと楽しい時間が終わったころに目が覚めるからだ。
五条の手が伸びてきて私の腰を抱きしめようとするが、その手の力はいつもよりかなり緩かった。
「ビビってるね」
「そりゃ、1回体験するとね」
その日から五条が私に重心を預けるほどのしかかってくることは無くなったが、その気遣いは1週間も続かなかった。

2023-09-24
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