※冥さんが大好きなシリーズ主


「冥さん、忘れてましたがここはうどん県でした」
「こんなに大きく主張する店が並んでるのによく忘れられたね」
「すみません。久しぶりのペア任務なんで完璧舞い上がりました。時間あるんで食べに行きませんか」
「いいね。けれど」
どこにいく?と言われて確かに迷う。前後左右うどん屋に囲まれていた。そう、ここはうどん県。信号よりうどん屋が多いらしい。噂だけどマジだろうか。
グルメレビューサイトをみても、うどんだらけでなにがいいか分からないし、検索ボックスに近くにあったうどん屋の名前をいれて検索してみても、美味いという人もいればまずいという人もいる。迷う…せっかく冥さんと久しぶりのペア任務なんだから最高のうどんキメて帰りたいじゃん。
とはいっても分からないので、冥さんに気になるところはありますかと尋ねたら、すこし考え込んで、あそこかな。と、指をさした。
1番大きくうどんと書いた看板のある店だった。わかりやすい。

店の外には写真付きでメニューを出した大きな案内板があり、観光客にもわかりやすい作り。ここは人気だなと検索してみたら、またも賛否両論。もうわからん。いいです。大丈夫です。冥さんが指名したからここが最高なんです。
「小が300円は安いね」
「食べ比べできるように、量が少ないんですかね」
「そうかもね。とりあえず入ってみようか」
店の戸をくぐると、すぐにつゆの匂いが鼻孔を擽る。店内は駅近くという利便性もあってか、スーツケースを引いた旅行客が多い。
お盆を持って前の人にならって進むと、店員がカウンターの向こうに居て、その場でうどんを作ってくれる。あとはそのまま進んで、ほしければ天ぷらやおにぎりを取ってレジでフィニッシュ。フードコートにあるうどん屋と同じ形式か。
「冥さん何にします?」
「私は肉うどんかな。なまえは?」
「私はかけ小にして天ぷら充実させます」
私達の番が回ってきて、冥さんは「肉うどんを特盛で」と、しれっと最大サイズを頼んだ。え!?お腹へってたのかな……。しかしさらなる驚きが起きるのに時間はいらなかった。

「うどんすきじゃないですか」
冥さんのお盆にのせられたのは、東京の特盛を遥かに凌駕するうどんだった。こんな量の麺、鍋じゃん。私が頼んだ小が東京の並だった。
麺だけでも多すぎるのに、その表面にさらに乗っかってくるボリュームのある甘めの味付けの牛肉。しかもこの土地のうどんはコシがあり太麺。つまりよく噛まないといけないということは、満腹中枢が早く刺激される。恐怖だ。1人で立ち向かえるのか?
「冥さんそんなに食べられます……?」
思わず声が震えてしまった。私の盆の上の汁の水面にも、文字通り漣が立つ。冥さんは女性の腕にはプレッシャーがある丼の乗ったお盆を、ひょいと持ち上げた。

「問題ないね」

し………しびれる〜〜〜。

腰が砕けそうになった。冥さんはその言葉通り、席につくと上品にうどんを吸い、1本残らずうどんを食べきった。私は冥さんのうどんを食べる姿に見惚れてしまい、うどんは後半は冷めたが、コシは全く変わっていなかった。冥さんも……うどん県のうどんも……すごい。天ぷらは動揺して食べそこねた。

2019-10-22
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