※関西弁知識がない人間のエセ関西弁ですので苦手な方は回避されてください。





アンタここでなにしとるん?
……ふぅん、嫁、待っとんの。ここで待っとるヤツ意外と少ないんやな。もっと未練たらしゅう待っとるかと思ったわ。何?俺が待っとるヤツ?嫁でもカノジョでもあらへんよ。俺のこと使った女や。……まあ茶ァついでくれたから教えたるわ。
見て、ここ。そう、女に刺されたん。多分見せんのはアンタが最後やな。腹立つし。ちゃうちゃう。ここ刺した女は待ってへん。顔も見たくないけど、もし会ったらブチ抜いたる。

待っとる女に会ったのは俺がハタチくらいの頃やったかなぁ。本やドラマで大昔から続く名家いったら、みぃーんな和装でデカい家住んどって女は家のことだけみたいな、わっかりやすいデカい家出てくるやろ。俺の家はアレ思い浮かべてくれたらええ。
で、ウチで働く女が風邪ひいて寝込んだときに俺の父ちゃんが別の家から女を借りてきたん。

その女、食事前に俺に羊羹切って出したん。
ゴロゴロ栗入っとるヤツ。その栗羊羹を1センチくらいにうっっすく切っとった。阿呆かって。入っとるもんの味わからんやろって。
貧乏人なんやろうなぁって思ったから思いやりでかるぅ言うたのに、そいつ地蔵みたいに表情変えへんで「直毘人さんに雇われてきたんで、直毘人さんの好きな切り方しろと言われて」って、アンタみたいな東京の喋り方で言った。
腹たって皿ごと蹴り飛ばしたら、顔にあたって、それでもそいつしれっとして全然効いてへん。顔の筋肉死んどるみたいな態度で羊羹拾うた後「直毘人さんの言う通りの人ですねえ」って着物の袖から羊羹まるごと1本だしてぶん投げて来た。

蹴りかましたろと思ったらな、こいつ信じられんことに結界はっとったん。あぁ、結界ってアレや、ガキのころバリアや言うて遊んだやろ。あれとおんなじもん。こいつの憎たらしい所は皿ぶつかったときは全然はっとらんかったクセに、蹴られそうになった時だけはったってとこや。羊羹1本持ってきて完璧誘っとったわ。思い出したら腹立ってしゃあない。
あー……、俺の父ちゃんは酒飲むとき、薄い羊羹つまみにして飲むからそれのせいやね。いやアンタ羊羹に興味あるんかい。死んだら腹へらんやろ。

アイツ装甲みたいに常に結界はってるせいで痛めつけもできひんし、口で言うても耳詰まっとる。全然効かん。アカンな。アカン。性格が特にアカン、男立てられへんのはクソや。女は男10人おったら10通りの対応するのが当たりまえや。そやけど結界術の腕良かったからそこだけは評価したるわ。

で、数日経ってウチの家の女が動けるようになって、アイツが帰る時が来た。腹立つから敷地外で1発かましたろと思って後つけたらウチの若いのが1人はなまえ……あ、アイツの名前な。まぁええか。なまえに忘れ物届けに来て、声かけた。
ほんならあの女、振り返ったとき笑うとった。
ニコニコそいつと話して、そいつが帰った後にやっと俺に気ぃついて、さっと表情かえて、また、しらーっとした顔で俺のこと見て「お世話になりました」って帰っていった。
その時は呆気にとられてな。追いかける気ぃのうなって。……なんでやろな。笑った顔馬鹿面すぎたからやろうな。
家帰ったら父ちゃんがおって「なまえは良くなかったか?」って聞いてきた。最悪やんあんな女。パパも女の趣味悪ぅなったなって伝えたら、ゲラゲラ笑われたわ。

その後ネタバラシされたんやけど、俺の父ちゃんがなまえの父親にちょい借り作ったらしくてな。見返りにその父親から、娘には俺らの業界で暮らして欲しくないから、内外的な勘当の口実を作るのを手伝うてくれって頼まれてたと。俺の家で当主の息子の俺に態度を悪くして……あぁ、俺の家、業界で屈指の名家なん。まあもう、あのクソ女が仕切るなら落ちぶれるやろうけど。

それから2年くらい後、アイツを見つけた。
仕事で行ったド田舎の駅のホームに立っとった。嘘みたいなくらい緩みきった顔して、着物なんて着たことあらへんみたいなフツーのその辺におる女になっとった。
間違いかと思って隣に寄ったけど、阿呆みたいに完璧平和ボケして3分くらいまったく気づかへんの。俺がわざとらしゅう顔のぞきこんでやったら、やっと気がついて、突然高い所から落ちた猫みたいな顔して、それからすーっと、あの時とおんなじ顔つきに変わった。
1発しばいたろかと手ぇふりあげたんやけどな、そういやコイツまた結界はっとるやろ思てデコ弾いたら、普通におつむに決まってな。
初めてあの女に触ったわ。
………女はぎょっとした顔してな、目ぇみひらいて、1歩下がって、俺を見た。初めてあの女が俺を見た。ほんならカンカンカンカンうっさい、なんやっけあの、電車きたら降りるやつそうそう遮断器、あの音がして。やかましすぎて、言おう思うとったことも忘れて、なんも言えんままやった。電車入ってきてドア開いて、アイツはなんか言いそうな素振りしたけど、結局なんも言わへんで電車乗って行ったわ。

こっち来て、死んだ人間の列に立って待ってる間に色々思い出しよったら、なんか無性に腹たってきてな。
頭に浮かんだのは、俺の顔こんなヘコました女でも背中刺した女でもなくて、あの女やった。腹立つんはどう考えても、前ふたりなんやけどな。なんやろうな。
はあ……?笑わしてくれるやん。ちゃうちゃう、女のくせに俺のこと最初に使ったのがアイツやから、単にムカついとるだけや。
見てみ。こんなイケメンなんやで、女には困っとらん。
話したらムカついてきたわ。茶、冷めたし淹れなおしてぇな。


2021-10-24
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