短編 | ナノ


「立向居ー!」


むぎゅうう


「ぶっ!?………ケホケホ…桜さん!?」


練習が終わって水を飲んでいると、同じイナズマジャパンでFWの桜さんが後ろから抱ついてきた。


「ん?どうした?」
「いや、その、汗かいてますから汚いですよ…」
「そんなことないから気にするな」


俺のささやかな抗議を一刀両断すると、桜さんはますます強く抱きしめてきた。抱きつかれること自体が嫌な訳ではなく、むしろ嬉しいくらいなのだが、桜さんの髪からほんのりシャンプーと汗のにおいがするのと、背中に柔らかいものが当たっているような気がするのとで、俺はもうオーバーヒート寸前である。つまるところ俺は少々スキンシップの激しい桜さんに好意を抱いている。そして、好きな人に抱きつかれるのは俺にとって刺激が大きすぎるのだ。
が、桜さんの次の言葉で俺の熱はすっと下がった。


「本当にかわいいな、立向居は」
「…………」


桜さんはいつも、俺のことを「かわいい」と言うのだ。俺は「かっこいい」と言ってほしいのに。


「立向居?おーい、もしかして怒ったのか?」
「怒ってないです」
「いや怒ってるだろ」
「怒ってないです」


怒ってない、いや怒ってるとひとしきり言い合った後、桜さんが俺の正面に回ってきて顔を覗き込んだ。


「あのなー立向居、」
「桜さん…近い、ですっ…!」


一度下がった顔の温度が、また上昇していく。そして、鼻がくっつくんじゃないかという位の距離で桜さんは言った。


「普段の立向居はかわいいが、一生懸命サッカーしてる立向居はかっこいいぞ」
「え……?」
「ま、かっこかわいいってとこかな」


言うだけ言うと、再び真っ赤になった俺を置いて桜さんは去っていった。


「かっこ、かわいい………」


少しは一人の男として見てくれてるってことなのか、ただ単に拗ねた子をあやす感覚で言ったのか。俺としては前者であることを願う。


俺もっともっとサッカー頑張って、いつか絶対に「かっこいい」って言わせてみせますから、それまで待っててくれますか……?


俺は、遠くなっていく背中に小さく語りかけた。




130203

前サイトの加筆修正
過去作品駄文すぎて泣けた






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