短編 | ナノ


「起立、礼」


『ありがとうございました』の唱和を合図に、クラスメイト達は各々食糧を求めて購買に走ったり、仲の良い者同士で机をくっつけたりし始める。


俺はというとそのどちらにも混ざらずに、弁当包みを持って廊下へと出た。


人の波に逆らって上の階に向かう。窓から射し込む日光が気温を上げているのか、11月にしては暖かい。午後の授業は居眠りが続出しそうだなあとかどうでもいい事を考えながら、俺は目的地である屋上の扉を開ける。


そこには、いつものように1人ぽつんと弁当を広げている少女の姿があった。


「桜ちゃん、おはよう」


声を掛けて近づくと、彼女は顔を上げてこちらを見た。


「…基山先輩。…こんにちは。……もうお昼ですよ」
「うん、そうだね」


ニコッと笑うと、 彼女は無表情を崩さないまま視線を膝の上の弁当に戻した。


「いつも思うけど、毎日お弁当持ってくるの偉いね」


俺も、1メートルほど離れたところに腰を下ろして同じ様に弁当を食べ始める。


「……それは、先輩も同じじゃないですか」


暫くして返ってくる返答。
彼女はどうやら何かを言う際に1回頭の中で考えてから口に出している、という事を俺は2ヶ月の屋上通いの中で気づいていた。


「あ、今日は卵焼きが上手くいったんだ。食べるかい?」
「…頂きます」


今のはちょっとだけ速かったな。


彼女は、感情の起伏が殆ど表情に出ない。そのせいか、クラスでは浮いた存在らしい。
そんな少し不思議な少女を、俺は好きになった。その事実を晴矢や風介に告げた時は俺も不思議な奴と言われたけどね。


きっかけとか理由なんか、どうでもいい。
毎日『好き』という気持ちが大きくなっていくのが問題なんだ。
自分が言ってることもよく分からないが、とにかくそういう訳で今日も俺は彼女の隣で昼の一時を過ごすのだ。




120123

前サイトから以下略






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