短編 | ナノ
私の彼は亜風炉照美という名前だ。女の私ですら羨ましいくらいの美貌の持ち主で、日本で彼の名を知らない人はほとんどいないと言われるほどの、今話題の若手俳優だ。有名人が自分の彼氏。聞こえはいいかもしれないけど、その実、大変なことの方が多い。2人で外を歩くのなんてほぼ不可能だし、そもそも会う機会が少ない。去年なんか、クリスマスやお正月、バレンタインはおろか、私の誕生日さえ一緒にいられなかった。
忙しいのはいいことだし、私のために最大限時間を割いてくれていることは十二分に分かっているつもり。それでも、つらい。我ながら自分勝手だと思うけど、どうしようもない。本当にどうしようもなく会いたいの。
ピンポーン
布団に顔を埋めると同時にチャイムが鳴った。
ピンポーン
どうせまた新聞の勧誘か何かだろう。今はそんなのに応対している余裕はない。
ピンポンピンポンピンポンピンポン
「……………」
無言で立ち上がり、玄関へ向かう。
「うるさーいっ!!新聞もテレビも間に合ってるわよ!!私は今大事なこと考えてるんだから邪魔しないで!!」
叫びながらドアを乱暴に開けると、
「やあ、タイミングが悪かったかな?」
私が今一番会いたい人がそこにいた。
「あ…」
驚きと恥ずかしさで固まった私をよそに、照美は勝手に上がり込んできた。
「え、なんで、照っ…」
陸に上がった魚のように口をパクパクさせる私を面白そうに見ていた照美は、一瞬きょとんとし、そして微笑みながら言った。
「なんでって、会いたかったから」
会いたかった。ついさっきまで自分の頭の中をぐるぐる回っていた言葉が胸にしみ込んで、急に体が軽くなったように感じた。
そっか。照美も私に会いたがっててくれたんだ。
「私もよ。会いたかった」
胸に飛び込むと、抱きしめられる。不安が完全に消えた訳ではないけれど、私はその不安ごと照美を愛している。それでいいじゃないの。
131008
とある漫画を読んでぐっときたので置き換えてみました
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