弔う花
 午前十時。朝の陽射しが、公園に咲く花々に降り注ぐ。すべり台の横に並ぶナズナや、ブランコの柵に寄り添うシロツメクサ、ベンチの後ろのひっそり佇むタンポポ、芝生から顔を出したオオイヌノフグリ。どれもが平等に、静かに身体を広げるように、太陽の恵みを受け取っている。光は暖かく反射して、公園を白く包み込む。
 少女は、花々を一輪ずつ摘み取っていく。どんな場所にあっても、どんなに小さくても、つぶらな瞳でとらえ、しゃがみ込み、そっと手におさめる。
 お気に入りの赤い靴が砂ぼこりで汚れてしまっても、地面に手をつけて、ゆっくり手を伸ばす。まだ柔らかいその爪には、花粉がしっとり吸いつく。そのせいで、零れる涙を拭うことができない。
 少女は、両手に摘み取った花を握って、公園に植えられた一番大きな木へ足を向ける。木のもとには、少女が作った小さな弔いの山がある。その前に膝をついて手を広げると、花を一輪ずつ添えてゆく。間違って花弁を傷つけないように、慎重に置いていく。
 膝こぞうが小石に当たって痛む。鼻水が垂れてかゆくなる。棘のついた茎で指先を傷つけてしまう。けれども、少女は涙を拭うことができない。これは弔いの花。ここは愛犬シロの墓。この儀式が終わるまで、シロはぐっすりねむれない。わたしがみおくってあげなきゃ、シロはぐっすりねむれない。

 春の陽射しが、手を合わせる少女の背中をぼんやり温める。花の匂いが、一つの終わった命を包み込んでいる。



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御題はなかむらさえさまより。ご馳走さまでした。


bkm
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