あどけないときめき
 ぷくぷく、泡の囁く声がする。僕は温かい殻に包まっている。白くて半透明で、柔らかい。殻の上から、海に優しく撫でられている。
 時々、向こうでせわしなく泳ぐ群れを感じる。群れの水流を、水草たちがゆらゆらと受け止めて、僕がいるところまで連れてきてくれるからだ。僕も殻の中でその流れを受け止めて、僕の周りでうずくまる兄弟たちのところへと伝えていく。海底の波は穏やかに連鎖していく。温かい。泡が僕の耳元でぷくぷくと囁く。
 僕の透明な体には、赤い線がいくつもある。それは細いくだに血というものが流れているらしい。僕は細いくだをびゅんびゅん駆け回る血とともに、呼吸をしている。ともに生きるために呼吸をしている。温かい。
 僕は母さんを見たことがない。でも近くにいるってことは感じる。僕の兄さんたちは、もう母さんを見たと言っていた。僕ら兄弟が全部寄り添っても敵わないくらいに大きいらしい。母さんが僕にキスをするとき、僕に流れる血がらんらんと輝いて、嬉しくてたまらなくなる。生きているから嬉しくてたまらなくなる。母さんを見たことがない僕は半透明の殻の中でらんらんと輝く。
 僕らは時間の中で息をしている。びゅんびゅん駆け巡る時間の中で、母さんのキスをもらってらんらんと輝く。それはとっても温かいこと。
 そろそろ殻が破れそうだ。ああはやく生まれたいな。



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御題は青山さまから。ご馳走様でした。


bkm
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