孤独な道化師
 まわるまわる。僕らはまわる。ビードロの音楽にのせて。僕らはゆるやかな幸せを纏ったピエロ。赤青白の衣装がパジャマみたいだろう。赤い丸っ鼻がおかしいだろう。
 隣の貴婦人、どうも御機嫌よう。今晩はまわらないのかい。ああそうか、ちびのシャルルがベッドに潜る前に、ネジをひとつ回し忘れたんだ。それならようし僕らがかわりに回ってみせよう。見ていてくれよ。ドレスの裾に寄り付いた猫が、片足を上げたままじっと黙ってしまっているよ。
 くるくるまわる。ネジは僕らを支配する。ポロン、ポロン、音が離れてゆく。もう一人の僕よ、シャルルの部屋がゆっくり見渡せるだろう。つみきのお城に、飛行機のプラモデル、おや、まんまるのつぶらな瞳は、妹のローラのお人形だ。どうも御機嫌よう。みんなじっと息をひそめてしてしまっているよ。
 そうして、シャルルが静かに眠るなか、僕らは回らなくなった。ネジは、最後にカチンといわせて止まってしまった。真っ白い羽に触れるように最後の音が鳴る。僕らは貴婦人と向かい合った。おやすみなさい、赤い口紅の貴婦人。お返事はきっと、次の晩にもらえるだろう。シャルルがネジを回し忘れさえしなければ。
 ああ今宵も月の光が綺麗だとも。見つめているよどこまでも。僕らはピエロ、夢を纏った飾り物。おやすみシャルル、良い夜を。




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御題は九条刹那さまから。ご馳走さまでした。企画「それはいつかのさよならよね」に参加した時の。


bkm
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