窓から見てる
 二人で家に帰ると私の吐く息が沸騰したヤカンが吐き出す湯気のように白いものですから、貴方はこの部屋は暖房器具はないのかと顔をしかめました。暦の上では立春をとうに過ぎたというのに冬の冷気は容赦無く、それこそ刺すような寒さでした。私は貴方にありますよと言って、六畳半の部屋の隅にぽつりと置かれたストーブの灯油の量を確認して電源をつけました。ストーブはひと昔前のもので部屋が暖まるのにはしばらくかかります。二人はポッケに手を突っ込んでみたり掌にはあと白い息をかけてやったり冷え切ったコートごしに自身の体を抱えてみたりと、忙しくしていました。どうも最近一段と冷えたようで、手袋やマフラーを身につけているのがまるで意味がないように思うのです。貴方は私より寒がりであると分かりきっていましたので、はやくその身体に温もりが感じられるようにと私のマフラーを首に巻いてあげました。ありがとうと寒さのお陰で弱々しく笑って、貴方はお返しにと私の両手を包みこむように握ってくれましたが、貴方の手の方が凍るように冷たかったので思わずふふと笑ってしまいました。ストーブのジジッという音がしてようやく足に暖かい空気を感じることが出来た時、ちらちらと雪が舞い降りていました。
「ねえ、雪ですよ」
 貴方は握った両手をこすり合わせながら「そうだねえ」と、寒がりのせいでありましょう、むしろはやく体を温めようとそちらに集中していて、さほど興味のなさそうに返事をしました。貴方がどう反応するかは、長年連れ添った夫婦ですから大方予想はついていましたので私はそれほど気にしませんでした。窓越しから見える、外の僅かな灯りに照らされゆっくりと、秋の枯れ葉ように舞い落ちてゆく雪一粒一粒が、何か可愛いらしい妖精のように思えてきましたので、
「この雪たちは私たちを窓から見てるのね」
 と、呟いて息を吐き出しました。ストーブのついた部屋の中はまだ白い息がゆらゆらと上がっていました。




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それいつに参加した時の。御題は禾林さまから。ご馳走さまでした。


bkm
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