至福
 線路に沿って聞こえるリズム、それにまた沿って揺れる座席、車内が傾くと雲のようにゆっくりと動く、差し込んだ夕日と影。私は一人、電車の中で感じる心地よさに身を預けていました。夕日はもうすぐ、向こうにひっそり佇む森の背中に隠れてしまいそうでした。刈られたせいで少し肌寒そうな田んぼと、その間にぽつぽつとある民家が、通り過ぎてゆく私の四両電車をじっと見つめておりました。
 私は揃えた両足に僅かに当たる夕日に懐かしいような暖かさを感じながら、この長閑な田舎をただ見つめていました。別段心境的に何かがあったわけでは無いのですが、機会的に積まれたコンクリートと共に生活し知らぬ人と行き交い住み、時々こうして当てもなく相反した世界に自分の身を置くと、すっかり心が洗濯されたような気分になるのです。そうして私は時々、夜までこの世界に居座り誰にも知られぬ原っぱで、ビルと電線の間で窮屈そうになどしていない星たちの輝きを目の当たりにするのです。

 そっと、夕日は森へ落ちてゆきます。私は手にしていたマフラーを首に巻き、その光が紅色に染まって薄ぼやけていくのを、じっと見ていました。




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冬の夕日がいちばん好きです。


bkm
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