火曜日の残念続きな女の子
 朝日を浴びるのが気持ちいいから、早起きは好き。時間があったらあそこの公園まで散歩して、長閑に時間を費やしてからふふんと学校に行きたい。

 なんて思う日がいつか来るのだろうか。低血圧なおんなは真夜中の匂いが好物だって知っているのは私一人だけ。低血圧でくせ毛のおんなが映画に涙もろいって知っているのも私一人だけ。毎朝気付くと電車に揺られいてどうやって布団から這い出して何を口に入れて何時に家を出たかを知らないのも、きっと私一人だけ。自分の習性は嫌というほど解っているつもりなのに、なんで昨日はタイタニックなんか観てしまったのでしょう。そしてどうして泣き疲れてそのまま寝てしまったのでしょう。

 朝からそんな後悔の渦が脳内を取り巻いていた。ほとんど人影の見えない電車の中、僅かな隙間から広がる景色に男の子を見つけた。黄色いキャップ、制服に着られている細い首、まだ空気はひんやりとしているのに短パン。いつも大きなランドセルをしょったまま座席にどっかり座るその子は、よく知っていた。毎日同じ時間の電車同じ車両で同じ座席に座っている、満員電車の同志、喋ったことはないのに胸につけた名札で「あゆむ」くんだということも知っていた。
 いつもと違うのは、その「あゆむ」くんがとっても興味津津に私の顔を覗き込んでいたこと。

「おねいさんその目えどうしたの」

 外見通りの子犬のようなあゆむくんの言葉に全身から痛い汗が噴き出る。間違っても私は華の女子高生。こんな小さな男の子が声をかけたくなるほど酷い顔面だったのか、なんて認めたくない気持ちが確かにあった。思わず見開いた目が腫れたおかげで全く動かなかったことが不幸中の幸いだと思い、毛穴から溢れる焦りを無視してあゆむくんに満面の作り笑いを向ける。

「全然、まったくいつも通り」
 すこうしだけ、口元が引きつったのはあゆむくんには気付かれぬまい。

「違うよ、昨日のえんぴつの線みたいな目えと全然違う!」

 今日はおさかなの目えだねと、小さなえくぼを笑顔にくっつけるあゆむくんを視界から消した。どうせ私がふてくされ女だと知っているのは、多分私だけじゃない。





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企画「鋭利で、それでいて柔らかな刃物」に参加した時の。


bkm
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