キャラメルチョコレイト
「まあ、なんて素敵なの!」
 と感嘆の溜め息を吐くジュリアの反応に、ロバートは満足げにゆっくりと頷いた。
「少し苦労はしたが、なに、君のためなら安いもんさ。どうだい、この夜景は」
 ロバートが甘く囁きながらジュリアの肩に手を置く。
「ああ、ロバート、あなたって最高!」
 抱き着くジュリアのアッシュ色の長髪を撫でながら、ロバートは完全に自分に酔いしれていた。「そうだろう。僕って最高なのさ。君のためにホテル最上階を用意してあげられるほど気の遣えるイケた紳士が、この僕を置いて他に誰がいると言うんだい」こんな調子で思っていた。
「これだけじゃないよ」
 彼が声をひそめると、ジュリアの目が著しく輝きだした。
「もしかして、あれも?」
「そう、あれさ」
 ロバートは自身の胸ポケットに親指と人差し指を入れ、そこから銀紙に包まれた小さい粒を一つ取り出しジュリアの前で軽く振ってみせた。色づいていたジュリアの頬が更に赤く咲いた。
「まあロバート!」
 彼女は思わず音を立てて彼にキスをした。
「それ欲しかったの!」
 興奮するジュリアをロバートは宥めるように丁寧に彼女の手を取った。そして自身の指におさめられている粒を、馬鹿に時間をかけてそこに乗せた。
「味わってお食べ、ジュリア。僕と至福の時を過ごしながらこの幸せを噛み締めようじゃないか」
 決まった。彼は心の中で小躍りした。彼女の指が銀紙を開き、そこにある一粒のチョコレイトを取って口に運んでいく。これで彼女は僕の虜になるはずだ。と一人瞼を閉じ頷く。彼女さえ僕の手の中に入ってくれれば、人生が上手くいくことを保証されたも同然だ。資産家の娘は逃すものかと粘った努力がようやく報われる時がきたのだ。
 と彼からしてみれば随分と感じていたやも知れないが実際は数秒という短い間が過ぎて、次の瞬間、浮かれ男ロバートは果たして今したがの現状を理解できないでいた。先ほどまで両手を叩いて喜んでいたジュリアが全く表情を変え、眉毛を吊り上げ目に涙を溜め彼を睨みながら、大きく開いた掌を構えているのだ。ロバートの左頬がじんじんと痛みだした。呆気に取られて無防備に自身の頬を撫でてしまった彼の心情はこうだ。「上手くいっているはずなのに、何があったと言うんだ」
 彼女が喚き立てる次の台詞で彼は後悔の念に苛まれることになる。


「馬鹿! キャラメルチョコレイトは大嫌いって言ったのに!」



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企画「チョコレイトバトン」に参加した時の。馬鹿らしい話が書きたかった。


bkm
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