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「いつの世も、どこにおっても、危険はつきまとうものじゃな」
 老人はかざしていた右手を降ろすとぽつりと言った。まるで落ち着いている。
「梅はこの先、あやつらから身を隠さねばならなくなる。だが、この世界ではあまりに無防備すぎる。あやつらがいない場所なぞないに等しい。この世界の生き物をやつらは獲物として特に好むからの。だが、いてもあやつらが気付かぬところなら存在する」
「いても、気付かないところ……?」
 震えた声で梅が言った。
 老人はこっくり頷くと、側にあったベンチに近づいた。俺が見かけた時、老人が寝ていたベンチだ。小洒落たデザインで、背もたれがついている。
「この世界で特殊な能力を持つ者は稀じゃろう。逆に言えば、能力を持つ者は目立ちやすい。見つかりやすいのだ。無防備といったのはそう言う意味じゃ。そう考えると、梅が気付かれぬ場所とは一体どこか。自ずと見当がついてくるはずじゃ。この世界でいうならば、そうじゃな、木を隠すなら森の中へとでもいうかの」
 さっきから老人は「この世界」と言う。まるで、「自分はここの生き物ではない」とでも言うように。

「この世界でそこを知るものは極めて少ない。全ての生物が感情を持ち、意思を持ち、言葉を持った世界。わしは君たちをそこへ案内することが出来る」

 わしはそこの番人のような者じゃ、と老人は付け足した。
「そんな馬鹿な」
 俺は狐につままれたような気分だった。
「パラレルワールド?」
 途端に梅の声が水水しい好奇心に溢れた。何を期待しているんだこの人は。
「この世界で言う『能力者』という能力者がそこに集まっておる。行けばあやつらの鼻も鈍くなろう。……その入口は、ここにある」
 そう言って、老人はベンチを指さした。


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