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 老人が話にさすがの梅もどんどん青ざめていくのが分かった。あんなおぞましいやつに命を狙われるなんて、ましてや生まれつきの治しようのない能力がために獲物にされるなんて、俺なら考えたくもない。
 公園に着いた。淡い街灯がぽつんと立って、すっかり暗くなった辺りを僅かに照らしている。
「あやつらは悪魔の一種じゃ」
 老人は真剣な顔つきでとうとう非現実的な言葉を口にした。疑いの心が再び俺の中で渦を巻きはじめた。
「嘘だ。悪魔なんているはずがない」
「いるのじゃよ紫くん。君たちが知ろうとしないだけで」
「もちろん知ってる、でもそれは本やテレビの中の話だ。現実には存在しない」
「君はその目で見たじゃないか」
 老人のしわしわの人差し指が俺に向けられる。もっともだ。だけど俺はどうしても信じられなかった。
「じゃあ仮にもし悪魔だとしたら……こいつはどうなる? たくさんいるんだろ。今日みたいに何も出来ず喰われるのを待ってろっていうのか」
 こんなに他人のことを気にかけていることが自分で不思議だった。なんとなく、今この女を放っておくのは気が引けた。どうしても、車に轢かれそうになった梅の姿に父と母が重なって見えて仕方がない。以前のように何も出来ないまま人が殺されることが嫌なのかも知れない。
 なかなか老人が口を開かないので、もどかしくて空を見上げた。晴れた夜空に点々と星が輝いている。それに混じってせいの高い街灯の光が月のようにぼんやり浮かんでいるみたいだ。少し見つめていると、俺はその光が何かがおかしいことに気付いた。
「なにあれ……」
 光がぐらぐら揺れている。いや、街灯が根っこから揺れている。俺たちから十メートルほど離れた街灯が、キイキイと音を立て回転しながらゆっくり揺れているのだ。まるで街灯が意思を持ったように、どんどん振り幅が大きくなってゆく。遠心力がかかって、嫌な風が頬をかすめる。隣で梅が息をのむ音が聞こえた。
 汗が身体中から噴き出る。老人のさっき言った言葉が、俺の頭の中でぐるぐると回っていた。
「直に次がくるって……まさか」
「まさかじゃよ」
 老人は間髪入れずにそう言うと、右手の掌を街灯に向けた。
 急に街灯が動きを止めた。くるりと回り、その黒い鉄の塊を後方にのけ反らせると、なんと俺たち目掛けて一気に倒れ込んできた。
「危ない!」梅が叫んだ。
 街灯が眩しい閃光に包まれた。老人が巨大男を消したものと同じ光だ。次の瞬間、甲高い悲鳴が響き渡る。細長い鉄がぐにゃぐにゃと変形し、光の中からギョロついた目が現れた。巨大男と同じ瞳だ。苦しそうに唸っている。
「おのれ……サイダーの住人……だったか」
 地響きのような声で確かにそう言い、そして巨大男と同様に跡形もなく消えてしまった。
 辺りはまたもや張り詰めた静寂に包まれた。


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