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「ふむ、冗談が通じなくてとても残念じゃ」
「なんだー。わくわくしたのに」
 呑気な会話が続くので、俺は痺れを切らして一気に言った。
「教えてくれ。あんた何者なんだ? あのデカい男は一体なに? 元の姿って? 今一体何が起きているんだ?」

 数秒間の空白。老人は細い垂れ目で俺を見つめ、俺はその口が開かれるのを黙って見つめていた。
「落ち着いておくれ。よし、きみのためにちゃんと話そう。もちろんお嬢さんのためにも」
 それまでと打って変わって、諭すように静かな口調だった。俺は、暴れていた馬が次第に大人しくなってゆくような感覚に包まれた。老人の一言で、自分が嘘のように落ち着いていくのが分かる。
 女もじっと黙って老人を見ていた。
「その前に、お二人の名前を教えてくれんかね」
 呼び名がなくてはことは始まらんからのう、と老人は弱弱しく笑った。
「……深代紫」
「西田梅といいます」
「紫と梅じゃな。わしについて来なさい」
 ここじゃあまりにも目立つ、そう言って老人は背を向けて公園の方へとゆっくり歩き出した。俺も立ち上がり、女の手を取って立ち上がらせてやる。
「ありがとう」
 女は自分の服についた汚れをはたき、それから黙って俺をみた。
「ふかしろゆかりくんって言うんだ」
「……ああ」
「じゃあ、改めて。ゆかりくん。さっきは助けてくれて本当にありがとう」
「大したことしてない」
 ぼそっと呟いた。一日でこんなに感謝されたのは久しぶりだ。
「わたしのことは梅でいいから」
「……うん」
 女、もとい、梅はまた虫取り少年のようにニカッと笑った。

 老人の後ろにつくと、老人がゆっくり歩きながら口を開いた。
「まず、あやつは梅の能力に反応して現れたのじゃ。動物と喋ったじゃろう。やつらは獲物を探す目だけは肥えておるからな」
「あの、やつらって、他に何人も?」
「腐るほどおるぞ。姿を変えて、この世にたくさん紛れとる。この周辺にいる輩はもう梅の存在に気付いておるはずじゃ。直に次がくる」
 急がなくてはのう、と老人はのんびりと言った。
「君らが出会ったやつはまだ経験の浅い若造だった。常識のあるやつはまず不注意に元の姿で現れたりしない。おおかた君らを驚かせようとしたのじゃろう」



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