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 急に音が止んだ。しんとした静寂。いや、さっきからずっと静寂だった。男がぴたりと黙ったのだ。
 どうしたんだろう。どうやって俺たちを喰おうか躊躇っているのか? そう考えた次の瞬間、耳をつんざくような悲鳴が辺りに響いた。
 驚いて目を開くと、叫んだのは巨大男だった。男の向こう側で、何かがまばゆい光を放っている。男は後方に身体を向けて、光を払おうとやみくもに両手を振りまわしながら喚いている。身体を反らしてみたが、男が大きすぎて向こうに何がいるのかは把握出来ない。女を抱えながらもう一度大きく身体を伸ばして目を細めると、やっと何がいるのかが見えた。
 人だ。ぼやけた白い光の中で、片手を男の方に向けている。
 巨大男の喚き声が一際大きくなった。眩しい閃光が男を一瞬にして包み、そして、音もなく消えてしまった。白い煙がゆらゆらと舞っている。辺りが再び静まり返った。

 跡形もない。

 一瞬の白昼夢を見ているようだった。おかしい。今日は何かがおかしい。十年前のあの時の匂いが帰ってきたようだ。偶然だろうか。いや、偶然であってほしい。
 頬を垂れる冷や汗に気付き、それからいやに暴れる心臓に気付いて、宥めるように胸をさすった。とりあえず、もう男はいない。男に襲われる心配はない……男には。
 
 立ち込める煙の向こう側に、巨大男を消したそいつが立っていた。
 


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