君に永久を誓う


「翔太、これやるよ。」


玄関開けて、出迎えた俺のお帰りという言葉を遮って、ポスリと胸に押し付けられたそれをぱちくりと瞳を瞬かせながら受けとると、朝井さんは首のネクタイに指先を引っ掻けながら、靴を脱いでさくさくと室内に入っていく。
腕の中にある、かさりと言う音を立てる綺麗に包装されたボリュームのある花束を見て手渡してきた本人の意図も、なぜこの花なのかも検討がつかなくて、慌ててその背を追いかけた。


「朝井さん、なに、どうしたのさ。」
「何って、プレゼント。」
「は?だからなんで?」
「あ?お前忘れてんの?」
「へ?」


朝井さんが帰ってきてからきょとんとかいまいちピンと来ない返答しかしない俺に、呆れたような顔をした朝井さんは、んな顔ばっかしてっと襲うぞと自身の首元からネクタイを引き抜くとにやりと意地の悪い瞳を眼鏡の奥から輝かせた。
その動作と、言葉と共に色気が増した朝井さんから慌てて目を逸らしながら、一先ず疑問だけは解決していこうと、花束に目を落として口を開いた。


「何で薔薇?」
「本当は婚姻届にしたかったけどまだ法律がねぇからなぁ、日本は。指輪は気持ちが重いし、かといってお揃いの時計とか中途半端なもん渡すのは俺が許せねぇし、同じ時間を生きてるんだぜとかクサ過ぎて笑い死ぬから、生花なら残らないし良いかなぁって」
「ちょっと待って朝井さん、本気で話が見えないんだけど、…しかもなんでこんな大量?」
「99本?だって11本じゃ花束って言わなくね?そんなショボい男じゃねぇから俺。だけど付き合って1年目で365本渡すほどチャラくねぇし、軽く思われたくないからとりあえず99本」
「…スミマセン、朝井さん、わからなすぎてお手上げなんですが、俺に説明をくれる優しさは無いんでしょうか?」
「ん?俺は翔太の困ってる顔そそるからあんまり手を貸したくない。」


眉をハの字に下げて困っているのを自覚している俺に、自分でもう少し考えてみようかと晴れやかな笑顔を浮かべながらポスリとソファに座った朝井さんは本気でSだと思う。
それを言うと分かっててやってるからと言いながら口角を上げて、俺の手を引いていきなり隣に座らせるもんだから、ガサリと花束が音を立てた拍子にベルベットのような触り心地をした赤い花びらが数枚宙に舞った。


「ちょ、朝井さん、乱暴したら潰れるって!」
「いんじゃね?花を添えるって良く言うだろ」
「イヤ、添える花の金額考えようよ、薔薇99本って半端ないよ金額」
「そうでもねぇよ。てゆか普通金に糸目はつけないだろ好きな奴のプレゼントには」


サラリと、普通に凄いことを言われた気がして、頬に熱が上がるのを感じる。
それを見て、クスクスと笑う隣の甘い声に流石の俺も唇を尖らせた。


「かーわい、拗ねてんの?」
「からかうのはもう良いからさ、流石に教えてくれない?真っ赤な薔薇を99本渡された理由と意味」
「降参?」
「…降参、」
「はは、んとにしょうがねぇな、1回しか言わねぇからよく聞けよ、しょーた」


甘い甘い声で名前を呼ばれた刹那、顎を捕まれて唇を啄まれる。
唇が離れた瞬間にふと瞼を上げると近すぎてボヤけるギリギリの所で甘く優しくふわりと笑われる。


「誕生日、おめでとう。99本は俺の気持ちです。とこしえの愛を貴方に、木佐翔太くん。」


言葉を紡ぐ唇のその意味を理解した瞬間、指先が震えるほど全身が一気に熱を持った。
あまりの出来事と落とされた言葉に花束を抱いていない左手で口元を覆うと、一連を間近で見ていた朝井さんは声をあげて笑った。


「はははは!ゆでダコみてぇ!しょーた、めっちゃ可愛い!」
「だ、なっ!このロマンチスト!」
「何とでも。俺はしょーたの心を掴めるなら何でもやるさ」
「クサいよ、それ。どんだけキザなんだ」
「そんなクサい俺に心底惚れてンのはどこの誰かなっと、」


肩を押されて、とさりと体をソファに倒される。
見上げた先には、眼鏡のフレームを掴んで引き抜き、その切れ長の瞳を獣のように光らせた先のロマンチストが居た。


「ねぇ、ロマンチストさん。この体勢はロマンの欠片もないんだけど」
「じゃあ薔薇散らしてやろうか。ムードは作れるぜ」
「無駄使いすんな」
「じゃあ後で薔薇風呂。セレブな気分を俺とふたりきりでどうぞ」


クスクスと笑いながら、俺の体温を上げるべく動き出した不埒な指先にビクリと反応すると、その隙に空いている方の手で抱えていた花束を抜き取られる。
ガサリとぞんざいに扱われたそれを見て非難の瞳を向けると、肩をすくませながら朝井さんは俺の胸へと指先を置いた。


「薔薇は火付け役。俺が本当に繋ぎ止めて、火をつけてめちゃめちゃにしてやりたいのはここだからさ。」


不敵な顔をしてギラギラと光る瞳を隠そうとしないままそう言う朝井さんに、きゅうと心臓を締め付けられる音を聞きながら、恥ずかしすぎて潤んだ瞳を隠すかのように腕を目元に置いた。


「よくそんなこと言えるよね」
「誰かさんが俺をこんなに執着させたからね」


くしゃりと髪を触られる気配に、あぁもうと言いたくなる。
甘すぎて、溶けそうだ。
もう勝手にすればという無言の白旗を勝手に受け取って、本当に好きなように俺の弱い所ばかりを責めて、体温を上げさせていく朝井さんに意識を持っていかれながら、この後の薔薇風呂は決定だなと1人完結する。
それでも、と霞む意識の中、1本だけは残しておいて貰おうと心の中で俺は思った。
365本の意味も、11本の意味も知らないけれどひとつだけ、赤い薔薇と1本の意味は知っている。


一目惚れと熱烈な恋


その愛情が、少しでも続くようにと、浮かされた熱の中で俺はそう思った。






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