※日記ログ(遊郭パロ:客高野、太夫律)



「へぇ、どんな物好きかと思えば相当の色男じゃないですか、…女を買えば良いものを」

くすくすと胸がくすぐったくなるような甘い声で笑うこの城の太夫は、そう紡ぐと雅な脇息に肘をもたれて頬杖を着いた。
さらりと白い頬に流れる柔らかそうなブラウンの髪が幼さを助長させて、妖艶に笑う含み笑いとのギャップをそそる。
あぁ、これがコイツがこの城の太夫たる由縁かと瞳を細めると、その思考を見越したかのように、すらりと長い指先で煙管の灰をカンッと弾いた。


「抱かれに来たんだか、抱きに来たんだか知りませんが、俺は今日、頗る機嫌が良くないので、お引き取り願いたく、」


きっと優しい色が似合うであろうエメラルド色の瞳を感情を無くした冷たい瞳にかえて言葉を紡ぐ。
華代を落としているのも、俺ではないし、こんな機会はないからちょっと行ってみてこいと上司に大枚をはたかれて、言われたまでの事を遂行したまでのことであるから、その言葉にならうようにでは失礼、と早々に立ち去る事は出来たのだが、

この態度と目が癪に触る。


「お前、どんだけ自分偉いと思ってんだよ、誰が男を好んで抱くかバァカ、」
「っ!?」


煙管に葉を詰め込み、火をつけ直して煙を吸った瞬間に言葉を叩きつける。
案の定、けほ、こほっと息苦しげに咳き込むソイツに参ったかと言いたげに鼻を鳴らしてやった。
ゆったりと座していたそれが背を丸めるように咳き込んだお陰で前のめり気味になり、喉を押さえた白い掌が艶かしい。
苦しかったのか涙を目の縁にためて、何てことをするのだと睨む鮮やかな瞳に、成る程、組み伏せて啼かせたい男の心理が分かる気がした。


「いくらオマエの許しが降りなきゃ近づけないっていったって、オマエ狙いの奴が付人に案内されて座れって指示出された場所から一歩も動かねぇなんてありえねぇだろ」
「俺からしたら、そんな場所から説教してくる客の方がありえないけどね」
「睦言はいてりゃ堕ちると思ってるバカばっかりだからだ、バカ相手だとテメェもバカになるぞ?」
「さぁ、バカでも良いんじゃない?どうせ籠の中の鳥だよ、俺は」


鳥は三歩歩いたら忘れるんだとさ、知らないよ、そんな言葉を吐いた声も顔も、ね。
とゆるりと笑った顔はどこか寂しそうに笑んでいて、何故かほおっておけなくなった。


「まぁ、良いや。気分が良くなったので良いですよ、許します。」
「へぇ、…後悔すんなよ?」


許しが出たと同時に、ズカズカとその綺麗で華やかで、それでも空虚なソイツの腕に手を伸ばす。
その瞬間、あぁ。こいつも同じかと落胆するように陰った瞳を閉じかけるソイツに思わず唸るように声を出した。


「声も顔も知らねぇなんて嘯いてるクセに、勝手に俺をそのバカどもと同じ土俵に上げてんじゃねぇよ、」
「え、」


驚きに見開かれる大きな瞳に、やっと太夫らしくない顔したなと笑いながらなだらかな額に唇を寄せる。
音もなく離れると、上質にあつらえられた着物の袖の下がススッと畳の上を撫で、唇を落とした場所で掌が止まった。


「百戦錬磨の太夫でも弱点ってあるんだな?看破したバカは居たかよ?太夫殿?」
「っなっ!?」


きょとん、と時が止まったかのように呆然とするソイツに、時間を呼び戻すようにわざとらしく言葉を紡ぐ。
その瞬間、額を押さえた状態のまま、首からぶわわと顔を真っ赤にさせたその人は、先ほどの妖艶に人を見下していたその態度ではなく、優しい瞳の色を羞恥で滲ませる全く別人のような反応を返した。
面白い、そう単純に思った俺は、趣味の良い螺鈿で彩られた襖の引手をつかみながら、華やかでそれでいて囲われている無垢なソイツに宣言した。


「俺無しじゃ居られないくらい、愛してやるから、それまで俺以外のバカに触らせんなよ?」
「は?何を言って、」
「自由に飛べなくなるから覚悟を決めろって言ってんだよ、本名も、お前自身も俺のモンだ。」


意図してゆるりと誘うように笑うのを最後に、その襖をスタンと迷い無く閉めた俺何故こんなにも強気で居られるかを、陥落させた城の太夫は知らないだろう。
さぁ、これからが始まりだ、精々名も名乗らなかった俺の言霊に縛られてゆっくり堕ちてこいと長い長い廊下を歩みながら俺は、これからを思って思わず口端だけで笑った。





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