何でも知っているような上から目線のお前が


俺は―――…大嫌いだ。




「だからね、キョン君。君は知らなくていいんです」
「またそれかよ。お前の秘密は積もるほど聞いたよ」


にっこり、と紳士的な笑顔のまま古泉が云う。まるでこれ以上は首を突っ込んでくるなとでも言うような、子供を諭すようなそんな表情(カオ)

…イライラする


「子守唄がいつまでも通用すると思うなよ?」
「…愛してますよ。心から」


受け流される会話。笑顔から微笑みに変化わり、瞳が閉じてまた開く。ひらかれた瞳の奥は、目の前の俺ではない、俺の本心を引きずり出そうと追っているのだろう…視線が絡むことは有り得ない。

「お前なんか大嫌いだ」


カツリ、と革靴を鳴らして距離を詰めてきた古泉から瞳を逸らすこと無く吐き捨てた言葉は、口元だけ綺麗に笑った目の前の人物に空気ごと絡め盗られ、いつもと同じそれに、軽く諦めを含めながらも大人しく瞼を下ろしていく。


顎を固定して、しつこいくらい追いかけてくる古泉を薄目を開いて確認したら、苦しげな、子供が母親に縋るような細められた瞳とぶつかった。
なんつーカオしてんだよ、と紡ごうとした唇は誤魔化すように歯列をなぞってくる古泉によって、飲み込まれた。


ギュッと瞼を瞑りながら、一瞬しか伺えなかったあの瞳の意味を甘ったるい自分の鼻にかかった声の中何となく理解する。



古泉が背を向けて歩きだそうとしていることに。



くちゅり…と名残惜しげな生々しい水音の後に続き銀糸が繋がり、肩での息が続く俺を嘲笑うかのように指先で頬をさわりと撫でた古泉は、慈しむかのような極上の微笑みで言い放った。


「さようなら」


ふ、と永久に続くと錯覚する程に絡め盗られていた視線がぷっつりと、張っている糸を切るより簡単にかわされ、まるで興味を無くした玩具を棄てるように、一瞬にして古泉から俺が消えたのが手に取るように分かった。


前にと歩き出す背中が語る。

これで解放宣言?

今まで散々振り回して、全部笑ってあやふやにしてきた癖に?

「っつ!?」

―…簡単に解放なんてさせるかよ。


「…なんですか?キョン君。」
「っ、はぁ、…んのっ偽善者が…っ!さよならなんて軽々しく…っ言ってんじゃ、ねぇ、よっ!」


酸素不足で笑う膝と腕を叱咤して前に去ろうとなびいたブレザーを思いっきり引っ張った。
驚いて目を見開いた顔を表に出さないように笑いながら振り返るその顔が憎らしくて、息を整えながら、振り返らせたと同時に胸ぐらをつかんで引き寄せる。


そっちがその気なら引きずり込み返してやるよ。


「…放して貰えますか?」
「いや、無理だね。俺の話を聞くまで放さない」
「…嫌いな人間と会話を重ねても一方通行で終わるだけですよ」
「お前のやり方は失敗だろうな、なんせ全部上から物言う上司みたいだからな」
「…。」

「俺が嫌いなのは…」


ずい、と顔を近づけて瞳を覗き込む。それでも往生際の悪い古泉は瞳を逸らそうとするので頬を手のひらで挟み込み、気まずそうに揺れる瞳に言い聞かせる。


「俺を同等に見ないお前が嫌なんだ」


しっかりとした目が僕に真っ直ぐ言いかけてきて、思わず目を見開く。
罵られるであろうと構えていた喉は予期せぬ言葉に渇いて掠れた。

「…同…等…?」
「そうだ。…大切なことは全部隠して、俺が探ろうとすれば駄々っ子を宥めるみたいに諭して、そんで、俺を試すみたいにキスしてその奥でくすぶってる俺の本心を探ろうと土足で人の心に入ってくる…俺にはなにも見せない癖に」
「…貴方の言うとおりですよ。キョン君…だから貴方を解放しようと…」
「善者ぶるなよ。ここまで俺を引きずり込んできたのはお前なんだからな」


遮られた言葉に息をのむ。それとほぼ同時にグイッとネクタイが引き込まれ、唇をよく知る感覚が掠めた。


「俺を見ろよ。」
「え…?」
「本心探んなくても俺がこの口で言ってやるよいくらでも。…お前が望むなら」
「…でもキョン君、君は…」
「嫌いな奴に唇委ねるほど俺は器用じゃねぇよ」


ふわりと笑いながらネクタイを握っていた腕をゆっくりと離す。…微かに震えるその手を視界に捉えて、視界が歪みそうになった。


「…さて、どうする?俺を盗るかそれとも読心術を続けるか…お前が決めろよ探りやさん」

イタズラに微笑む君は月のように美しくそして甘く優しくて


「僕の本心も読めずにずっと震えさせるのも可哀想ですからね」


届きもしない地上の鳥の僕はいつものように憎まれ口を笑顔で君に囁くのだ。

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