僕は今、倫理に逆らった恋愛をしています。世間体がどうとか、男子校でもあるまいしなんて一番考えなきゃいけない事さえ眼中に無くなるほど彼に夢中で、あろう事かそんな僕に振り向いてくれた彼には本当に感謝してもしきれないと正直思っています。でも、仕掛けた僕が言うのも正直はばかられるのですが、日々過ぎてゆくのが怖いというのが正直な話で、彼無くして生きれない僕と反対に、彼はキチンと普通の神経を持ち合わせていて、生産性の欠片も無い僕の恋人なんかよりも、彼を思ってくれる素敵な女性が現れた時彼はそちらを選ぶと思うし、僕は簡単に別れを告げられないのでは無いのだろうか、そして僕は彼と彼女の幸せをきちんと祝福して笑って彼から離れてあげられるのだろうか。…なんて今更思ってもどうしようも無い事を、彼の視線が放課後の校庭に注がれているうちに密かに思ったりする訳なんですが、


「古泉」


ポツリと紡がれた僕の名。
窓にパイプ椅子をきっちりと寄せて、頬杖をつきながら校庭を見据えている背中。
窓の外にある前髪が風にさらわれてサラリと流れる様と夕陽に照らされる髪が眩しくて思わず目を細める。
あぁ、禁忌に踏み入れた。ではなく彼だから恋をしている、と思い知らされる瞬間。大切な人ほど手を出せない男の心理がここで反映するなんて思いもしなかった。


「なんですか?キョンくん」


愛しい愛しい彼の名。
苦笑混じりに紡ぐのはどう考えてもどう思っても離れられる算段が出来ないからで、切ないその心を声に出さない為。
触れたらきっと離せない。
一生に一度の恋と言ってしまってもいいくらい溺れているのだから。


「お前今、すんごい可哀想な顔してんだろ?」


キィン!と野球部の金属バットがボールを弾く音。
一瞬だけ空気が変わった気がして、それでも気付かなかったかのように言葉を返す。

「そんな事ありませんよ。貴方の背中を見てるだけで愛しくて仕様がないくらいなんですから。」


愛しいのは本当。
ただ少しだけ明日という未来そのものが不安なだけで。
すると、笑っている気配を感じて少しだけ伏していた瞳を彼の背へと上げると、首を僕の方へ向けてふ、と目元を弛めている瞳と出会った。
まさかこちらをみているとは思っていなくて驚いて目を見開くと、弧を描きながらバァカと彼の唇が紡ぐ。


「お前が俺がこうしてる時、必ず俺との事を考えてんのはバレバレなんだよ」

「そうだったんですか。すみません、気を使わせましたか?」


そう言ってはぐらかすように苦笑すると、彼は怪訝そうに眉を潜めて、ガタンとパイプ椅子を鳴らして立ち上がった。
ピタリ、と僕の目の前に立ってしっかりと見下ろしてくる彼にどうしたもんかと目を泳がせると、両頬を両手でそっと包まれて逃げ道を遮断された。


「キョ、ンく…」
「言えよ。何がそんなに怖いんだよ」
「そ、れは…」
「どうせお前の事だから、俺が他の人間とちゃんとした倫理に沿った恋愛をする時の為に俺達のこれからにどう境界線を引こうかなんて思ってるんだろうけどな」


口ごもってどう濁そうか考える前に、彼が珍しく性急に僕の心を言い当てる。
何も言えずに黙り込むと、彼は呆れたようにため息をついて、頬を固定していた両手をするりと解いた。


「俺、そんなに信用無いのかよ、古泉」
「っ!?そんなことっ!!」


キョンくんの声が震えているのに気づいて慌ててガタリとパイプ椅子から立ち上がる。8センチ下から見上げられる視線が、かつてこんなに強かった日などあっただろうかとその瞳の強さに息を呑んだ。


「倫理なんて、もう俺にとっちゃどうでもいいもんなんだよ。古泉、俺はお前と簡単に終わらせるような軽いノリでお前と外道だって言われるような関係になった覚えは無いぜ。俺は、男とか女とか関係なくお前が好きなんだよ、古泉。」


言わせんな馬鹿。そう言ったキョンくんになにかが崩れる音を聞いた。
もう、戻れない。


「お前が覚悟決まんねぇってんなら、俺だって考えがあるんだからな古泉」
「すみません、キョンくん。もう大丈夫ですから。」


ゆったりと微笑んで今にも泣き出しそうなキョンくんにもう一度謝ってポンポンと手触りのいい髪を撫でる。
きっと僕は何度でも悩むだろう。愛すべき貴方をこのままにさせていいのだろうかと。
だからその時、もしもまだ貴方が僕を好きだと言ってくれるなら今この瞬間のように僕の本心を暴いて掴んで欲しい。
…なんて言ったらキョンくん、貴方はどうしてくれるんですかね。


「まぁた、んな顔してんじゃねぇよ」
「っ!?」


グイッとネクタイを思い切り引き寄せられ、初めて重なったそれ。
まるでそれは、彼の決意の表れのようで、不覚にも泣きそうになってしまった。



キミの悲しみを拭う為なら悪にでもなるよ
(お前が引く気なら、俺の真意やるくらいどうって事ないんだよ古泉)








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -