関係無いと思っていた御伽話が、一気に現実となって俺に押し寄せた。

考えるよりも先に動いた腕は簡単に瑛真に掴まれた。

掴まれた腕は俺が渾身の力を込めても易々とシーツに押し付けられる。

「恵、何も怯えることは無いよ。君はただ、俺から与えられる快楽だけを感じていればいい」

「ふざけんな!」

睨みつけるが瑛真の顔は涼しいそのままで、掴んで抑えているはずの手さえ力は籠められていない。

「恵、大丈夫、何も怯えることは無い。ほら力を抜いて、俺にすべてを預けて……」

瑛真の赤い瞳の輝きが増していく。

それと同時に俺の体は俺の意思に逆らって瑛真の言う通りに力を抜いていく。

ぐったりとベッドに沈む俺の体は、俺の意思では動かなくなった。

そっと俺の腕から瑛真の手が離れる。

俺は瑛真を睨みつけながら、俺の顔に近付いてくる瑛真を見ることしかできなかった。

「…恵……」

愛おしそうに俺の名前を呼ぶ瑛真は、俺の髪を撫でながら啄ばむように唇を重ねる。

「恵の髪は綺麗だ、短いのは勿体無いから伸ばすといい」

決定事項と言わんばかりに告げてくる瑛真に、心の中で誰がお前の言う通りにするかと悔しく思った。

啄ばんでいた唇は開けられ、瑛真の好き勝手に蹂躙される。
溢れるほど注がれる唾液を飲み込みたくないと必死で口の外に出すけど、抵抗はむなしく、飲み込まされる。
ごくん、と音をたてて飲み込んだヤツの体液に絶望が俺の中を染めていく。

昔、御伽話として爺様に聞かされた話が頭の中でこだまする。

『恵、ヤツらの体液は儂ら人間にとって最も危ない物じゃ。もし、触れてしまったら、聖水で洗い流さないと、とんでんも無い事になるのじゃ……』

与えられるままに飲み込むんでしまう。

頭の中は半狂乱で、どうにかしようと焦るだけ、さらに混乱する。

恐怖と悔しさに涙が溢れる。

涙で滲む視界のすべてを占領している瑛真の赤い瞳が、和むように細められる。

笑っているようで、悔しさが増していく。

咥内から瑛真の舌が抜け、唇が離れる。

それからゆっくりと離れた瑛真は、まぶたを閉じる。

その瞬間、体が思うように動いた。

身を捩って何とか瑛真の下から抜け出そうともがく。

掴まれていた腕を振り払い、ベッドの上から降りようとシーツに足を取られながらもう少しの所で、ドクン、体が熱くなった。

湧きあがるように体の中心から熱が体中に爪先まで広がって行く。

そのせいなのか足や手がシーツに擦れるだけで背筋が痺れる。

自分の体の中心にその痺れと熱が集まってくる。

「ヒッ、ぁ………ん!」

熱に浮かされて、体中が過敏になって痺れる。

痛いぐらいに下半身が疼く。

張り詰めている事だけが、なぜかリアルに分かる。

僅かな刺激が体中に快楽として駆け巡るが、その僅かな刺激だけではイけない。
何とかしようと動くが、過敏になった体はシーツに擦れるだけで痺れるほどの快楽となって、体が言う事をきかない。
もどかしげに少し動いて快楽に悶える。
熱に浮かされて息が上がる。

誰でもいい。

助けて。


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