扉が静かに開く音がした。

あの扉開くんだ。

まどろみの中、扉が閉まる音を聞いた。

それからベッドの片側が重さの分だけ沈んだ事がわかった。

俺の髪がそっと撫でられる。

そのまま降りてくる手は俺の輪郭をなぞり、首筋に辿り着いた。

冷たい手に覚醒を余儀なくされて、うっすらとまぶたを開ける。

先ほどカーテンを閉め忘れた窓から入っている月明かりに照らされた、俺に触れている冷たい手の人が見える。

月明かりがとても似合う綺麗なその人をぼんやり見ながら、アレ?と内心で疑問になった。

どこかで見た事が有るのは確かだけど、どこかが解らない。
こんなに綺麗な人を忘れるなんて事は無いよな……?

何処だっけと寝起きで動きの悪い頭で思い出そうとするけど、無理だった。

綺麗な人をぼんやりと眺めていると、目が合った。

その瞬間、ふわりって笑うその人から目が離せなくなった。

「おはよう」

どこか聞き覚えのある耳触りのとても良い声に、記憶の何かが訴えようとするけど、目が離せない綺麗な人の笑顔に釘付けで頭が回らない。

「気分は、どうかな?」

気分は別に悪く無い、まだ眠たいけど。

「眠たい………」

ふふ、と笑うその人は楽しそうだ。

「そう、邪魔してごめんね」

「………」

「名前……」

俺の上に覆い被さってくるその人をぼんやりと眺める。
ふわりと香ってくる、花、のような、蜜、のような甘い匂いが鼻孔をくすぐる。

「教えて」

俺の耳の横で囁くように甘え声を吹き込まれる。

「……恵…」

考えるよりも早く口の方が動いた。

「……けい………」

確かめるように音だけを出したその人は鼻がぶつかるくらい近付け、首筋にあった手をなぞるように、肌の感触を確かめるように鎖骨へと降りていく。

「恵」

今度はしっかりと俺に向けられた名前。

「恵、俺は瑛真」

「……えい、ま」

「そう、瑛真」

「………瑛真」

視線が合わさり、逃がさないとばかりに固定される。

「まだ、……眠い?」

「………ん」

「そう、ごめんね」

「……?」

「でも、月は昇りきった。儀式の刻限だ」

瑛真の琥珀色だった瞳が、赤く、輝く。

「その、目…」

暴れ馬が駆けるように思い出す。

「っぁ……」


「さあ、恵、我が花嫁。永遠なる我が伴侶となっておくれ」


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