家の都合で海外に渡って二週間。
妊娠中の姉を長時間飛行機に乗せるわけにもいかないから今回の仕事は俺が出向くことになってしまったのが運のつきだった。
囲塚の次期党首は姉と決まっていると言うのにゴマ擦りしてくる有象無象の数が半端ないことに吐き気がしてくる。
何よりも嫌悪したのは体を触られる事だった。
パーティーの席で挨拶以上の触れ合いをしようとする輩の体温が嫌で嫌で仕方ない。
自慢だろう豊満な胸を押し付けられても吐き気を感じるだけで、欲情することなどはっきり言って無理だ。
嫌悪や吐き気を必死で隠し笑みを作る。
後半は吐き気との勝負だった。
パーティーが終わって自室に戻ると戻す。
胃や食道が荒れているのは分かっているが辞められない。
体も心も荒れている。
それでも何とか持ったのは愛しい人からのちょっとしたメールがあったからだ。
今起きた、今古典の授業でつまらないとか、どんなご飯を食べたとか、本当にちょっとしたメールだ。
愛おしい人からのちょっとした可愛らしいメール。
これが有るから乗り越えられた。
仕事を終えてやっと日本に帰ってこれた。
同行していた姉の秘書に一言言って返事も待たずに迎えに来ていた江住の車に飛び乗る。
学園の寮に着いたのは深夜だった。
一秒でも早く会いたくて江角がドアを開ける前に自分で開けて寮に入る。
一回で待機しているエレベータの一機に乗り込んで自室のある階を押す。
じれったいほどのスピードで上るエレベータにかつてないほどの苛立ちを感じる。
自動で開く扉を押しのけるように体をねじ込み自室の前まで走る。
走るほどでは無いことぐらい知っているがそれでももどかしいと走る。
何もかもじれったくてもどかしい。
扉を開けるのでさえもどかしかった。
だけど、俺が開けようとする前に内から開けられた扉のノブを持つ人が見えた途端、それらはどうでもよくなった。
本能のままに目の前の温かさをかき抱く。
愛おしいその温かさを抱き締め求める。
何もかも夢中で、やっと気付くと玄関で愛おしい恵を冷たくてかたい床に押さえつけてキスしていた。
恵になんてことをと思っても久しぶりの甘い口付けが止められない。
何とか自分の中でキリを付けて恵の唇から離れる。
「…えい、ま」
息も呂律も回らない恵が、嬉しそうに俺を呼ぶ。
「恵、会いたかった…」
掠れそうになる声を何とか絞って、囁くように何とか言うことが出来た。
俺に抱きつき擦り寄る恵を抱き締める。
「えいま…俺、瑛真が足りない…」
「俺も恵が足りないよ。空かっぼで、死にそうだ…」
見上げてくる恵の視線が俺の視線と絡まる。
俺に欲情していると隠しもしないどころか見せつけてくるように訴えるその潤んだ瞳に、満たされつつ飢えてくる。
体を起こして恵を抱きあげた。
足早に寝室まで行き、ベッドに恵を下して上に覆いかぶさる。
「瑛真、いっぱいにして…」
俺を見上げ受け入れるようにだが逃がさないように俺の背中に恵の腕がまわる。
求めていた温もりに、体中が歓喜する。
「恵、俺も満たして」
恵の唇に貪るように喰い付いた。
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