完成した蒸しパンを3時のおやつとして俺たち自身で配る。
誰もが嬉しそうに貰ってくれて、蒼と翠は満面の笑みで最高に可愛い。

最後に王の執務室に行って、作った生チョコと蒸しパンをロードには蒼が、ラドには翠が渡していた。照れながら作った菓子を渡す様子がなんとも初々しくて、何て可愛いんだ俺の蒼と翠は!と、満足している俺の前に大きな手が現れた。


俺の目の前に差し出された手の持ち主は、ロードとラドときたらもちろん残りのアディだ。

「おい、なんだよ、この手」

「何って俺にもくれるんだろ、生チョコってやつ」

「生チョコを作ったのは蒼と翠。俺は手伝っただけだ」

「………そんなのって、アリ……?」

ガックリと項垂れたアディに、ちょっとムッとする。

「アディ、お前、蒼と翠が一生懸命に作った蒸しパンじゃあ不満なのか?」

「………お前な…」

「なんだよ」

キレてる俺に、呆れてるアディ。

「もちろんお姫さん方が丹精込めて作ってくれた菓子は嬉しいよ。……だけどな俺が心底欲しかったのはカズキが作ったものなんだよ」

わかれよ、と音も無く動いた唇に、ちょっと罪悪感を感じるけど、キレてる俺はそんなこと関係ない。

「バレンタインってのはな、本来は男が愛してる女に愛を告げる日なんだよ」

まぁ、あながち間違いじゃない。

よな…?

「えっ! それ本当!」

さすが翠。
食い付きが早い。

「本当だよ。バレンタインはヨーロッパの風習なんだぞ。ヨーロッパとかなら普通は男の方からだろ? あっちじゃ、女性をたてる文化だから、愛の告白の日に女性からってのは男に有るまじきってヤツになるんだよ」

嘘も付き通したら真になるよな…。

「えぇ〜? じゃ何でお母さんとかはチョコ作ってお父さんにあげるの?」

「日本のバレンタインは戦後の高度成長期の菓子メーカーの陰謀でああなっただけで、外国行くとバラとかやってるのが多いと思う? よくは知らないや、そこら辺の事」

「え〜、じゃ今まで作って損した」

慣れない手つきで今までの苦労を思い出していたのか、むくれる翠。

「そう言うなよ、翠」

「だって…」

「俺と蒼は年に一度でも翠が作ってくれた手作り、凄く楽しみにしてるんだけど、な」

「翠が作ってくれたチョコが世界一、美味いよ!」

「二人とも…! これからも二人のために作るね!」

よしよし、思惑通りに進んだ!

これで、あいつらに釘差しとけば、双子の手が傷つくことは無くなる!


双子から貰った生チョコと蒸しパンを食べ、午後のお茶の時間をご機嫌で過ごした。
短い休息が終わり、再び執務に戻った三人に別れを言って、最後に俺が部屋から出た。

もちろん、「今度からはバレンタインの用意よろしくな」と言って出た。

気分はルンルンだった。

だが、夜になって、なんて軽率な事をしてしまったんだろう…!と頭を悩ませる事になった。

夜になって男から愛を告げる日だからなと、野獣になったアディの相手をする羽目になるとは、時間が戻れるなら、双子だけじゃなくて自分の身も考えろって忠告したい。


まさか毎年、こうなるんじゃ……無いよな?


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