きゅっ、と可愛らしくリボン結びになった紐が背中に揺れる。
背中を覆うほど長い髪を二つに分けて結んだ髪の束がさらりと揺れ、可愛らしい刺繍が施されたエプロンを着用した翠がキリリと引き締めた顔で振り返った。
「準備万端…!」
ゴクリ。
翠と蒼が唾を飲み込む。
「今日は本番! 蒼ちゃん、一緒にがんばろうねっ!」
「おうっ! 今日こそはマトモに作ってみせる!」
闘志漲る双子を俺は可愛いと思いつつも、これから起きるかもしれない惨劇にコッソリとタメ息をついた。
まぁ、俺にとって今更だし、これが日常だ。
「蒼、翠。早く手を洗え。あとがつかえる」
俺は自分の手をさっさと洗い、必要な道具を手元に引き寄せる。
仲良く手を洗っている双子に持たせる気はさらさら無い、元居た世界とは重さも大きさも格段に違う一番危険な包丁を、早々に使い慣れている者たちに持たせる。
二本有る包丁を誰かが常に使っていれば、双子は包丁を使う機会は無いだろう。
たぶん…。
手を洗い終わった二人が何をしようかと辺りを見渡している。
「蒼、翠。早く粉を量って篩いにかけろ。蒸しパンは大量に作るんだからな」
「「はーい!」」
与えられた仕事が嬉しいんだろう二人の元気な返事に頬が緩みつつ、量りと小麦粉と大小数個のボウルなどと言った必要な道具を揃え置いていく。
「リジ、フォッカ、カミュ。あと任せた。双子には気を付けてくれよ」
やる気を漲らせている双子は早速も粉を量り始めていて楽しそうだが、あの大量の粉をぶちまけられるなんて冗談じゃない。
生まれて間もない頃から双子の面倒を見ている俺は元から知ってることだが、ここ数日で双子を理解した俺たち付きのやつらは双子の行動に目を光らせるようになった。
数日の実験の結果、リジとフォッカとカミュを付けていればまぁ大丈夫だろうと落ち着いた。
まぁ何かあったら俺に報告ってなってるから大丈夫だろう……何とかなるよな…。
昨日みたいに粉を辺り一面にぶちまけるなよ双子!
と、願いつつ、スタンとディルに頼んでこっちの世界の白いチョコを刻んだものを湯煎して溶かす。
こっちのチョコって白いんだ。有るって知った時は驚いたよ。だってな、青くて丸いから最初は飴だって思って食べたのにチョコって、詐欺だよな。こっちのは元から白いから果汁で色づけするんだと。だからこっちのチョコってカラフルで色んな果物の味がするんだ。
は? 俺がなんでチョコチョコって言ってるかって?
なんでって、この時期と言ったらバレンタインだろ。
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