重苦しい空気が漂う。
俺はこの恵の髪をどうすべきかと言うことのみを考えている。
恵は怯えた様子で俺を見つめている。
潤みをおびた瞳が何と蠱惑的なことか……
否、恵に餓えているとはいえ、気にいらない金髪をどうにかするのが先決だろう、と優先順位を俺は素早く脳内で計算する。
ああ、それにしても金色の恵も可愛らしい。
これでいつもの髪の艶めきが有れば申し分ない。
俺の恵はどうしてこうも俺の好みに合うのだろうか?
やはり恵だからだろう。
と、悠長に結論を出していた俺の目の前で、恵の涙が零れ落ちた。
「けぃ!?」
慌てる俺に、恵はいつの間にか噛みしめていた唇が震えながらゆっくりと開いた。
「えいまは……俺のこと、きらい…?」
「………はぁ…?」
理由が解らない。
「恵、何でそんなこと言うの?」
俺がこんなにも愛おしいと感じ、愛している恵。
「俺が恵を好きじゃないって、どうして思うの?」
俺にとって恵以上の存在はありえない。
「……恵…」
涙をいっぱい溜めこんでいるその瞳が、甘くて美味しそうだと考えてしまう俺が何と滑稽なことか。
「………だって、……だって、………………えいまは、俺なんて、もう、……どうでもいいんだろ……?」
「なんでそう思っているの?」
「えいまは俺と一緒に居なくても、平気なんだろ…」
ぽろ、ぽろ、落ちる恵の涙。
「瑛真が忙しいの解ってるけど、俺は、ちょっとだけでいいから瑛真と話したかった」
白くなるまで握り締められている手が痛々しい。
「別に、直接、会って話さなくていい、電話でも、メールでもよかった!」
ああ、俺はなんて愚かなのだろう。
「瑛真のウソツキ…」
俺は本当に愚かだ。
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