金に染まった恵を見ること、しばし。
唇を固く閉ざし、眉根を寄せそっぽ向いてしまっている恵の髪にそっと触れた。
触った瞬間、怒りがわいた。
「……恵?」
俺の声を聞いた瞬間、恵はびくりと肩を揺らす。
「恵の髪、いったい誰が染めたのかな?」
慌てたように振り返り俺を見てくる恵。
「誰かな?」
俺はたぶん、笑っているはずだ。
怯えた様子で震える恵は思わず黒い猫耳と尻尾が出ている。
へたりとたれている耳は大変に可愛らしい。
恵の金に染まっている髪から黒いままの猫耳へと手を動かす。
触れた先が以前と変わらない事に、内心で安堵した。
俺は恵を愛している。
それこそ毛の一本、その先端までも愛している。
爪先から頭のてっぺんまで恵であるならば愛おしくて堪らない。
それは猫科していても変わることは無い。
サラサラでふわふわで癖がつきやすい柔らかい髪質は猫科しても変わらない。
だから俺は恵の為とは言わない、俺自身のために恵の髪や毛を労わってきた。
恵の髪質に合わせ開発させたシャンプー、コンディショナー、トリートメント、だけでなく整髪剤をも選びぬき、もちろん乾かすときようのタオルにドライヤーも厳選した。
猫科したときようのこれらももちろん猫科ようで用意してある。
捌く用の櫛だとて人間用と猫科ようとそれぞれ揃えている。
もちろん髪だけでなく肌や爪のケアまで気を配っている。
それなのに、恵ときたら…
「俺が、染めました……」
考えも無く染めたらしい。
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