中等部の頃、知り合い恋人として付き合うようになった笹原恵は猫科人間だった。
経済界に名を馳せている我が家のおかげで知識として知っていた存在ではあったが本物を見るのは初めてだった。
一目見ただけで惚れてしまうほど凛々しい見事な黒豹。
毛色の黒の艶やかさ。
その姿態のしなやかさ。
野性味をおびた眼光の鋭さ。
人間の姿とは違う華やかさに、俺は息をのんだ。
初めて見る、時折出ていた耳や尻尾で見ていたとは言え、猫科した恵。
目の前にいる黒豹が恵である事は明白。
なのに、手を伸ばしたのはいいが触れるのには躊躇してしまった。
この美しい生きものを触れていいかのかと言う、神聖視じみた思考に呆れを感じつつそれを抱いた。
何時までも触ってこない俺に痺れを切らした恵が俺に擦り寄ってこなければ、今の関係は無いのではないかと実はあとで冷や汗をかいたのは秘密だ。
触れた毛先は恵の髪とまったく同じ。
膝の上に抱き上げ腕の中に治まる肢体は、小柄で筋肉はしっとりと付いてるのに細い。
ああ、恵だ…。
そう思えば、もう手放すなんて微塵も思えない。
その日は黒豹姿の恵を手放すなんて出来ずに、飽きることなく撫でまわし、抱きしめていた。
それから3年。
高等部に上がり、中等部同様に生徒会に入らされてはいるが俺と恵は恋人のまま過ごしている。
恵に関して言うならば、飽きなど無い。
もう日に日に、否、時が経てば経つほど愛おしくて堪らない。
離れている一分一秒が勿体ない。
それほどまでに俺は恵に溺れている。
この身に流れる血の宿業のなせる業なのか…。
だがそれでも良い。
恵だけが俺のすべてなのは間違いないのだから。
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