隙間なくくっついてる繋いだ手をじっと見ながら、時雨が時々道を尋ねられながら家路を通る。

足を動かすと同時に口も動く時雨に、適当に相槌をしながら、いつこの繋いだ手の事を訊こうかと窺っていたが、時雨の話しは尽きる事が無いのかまったく口が挿めないで家に到着した。

「トールのおウチって〜道場のお隣なんだね〜。だから〜あんなに強いんだ〜」

我が家の隣にある平屋の入口の横に掛けてある道場とでかでかに書かれてある看板を見て納得したような面持ちで頷いていた。

「何やってんの〜?」

道場の方を指差して、興味深々と俺に尋ねてくる。

「空手と剣道と、たまに柔道とダンスレッスン、あと昼間はここら辺のおばちゃんたちの井戸端会議所」

「幅広いね〜」

へらっと笑って家の玄関前にくると時雨の手はするりと放れていった。

タダでは放してくれないだろうと思っていたら素直に手を放してくれたことに内心で驚きつつ、時雨から離れて玄関の扉を開く。

一応送ってくれたんだから礼を言わないと、と思って振り返ると、そこには時雨の顔があって、唇にちゅっと温かくて柔らかいものがあたると時雨は凄く綺麗な笑顔で「また、明日ね」と言って帰っていった。

「やられた……」

見えなくなった時雨に呆れながら、居間へと向かってまだ残っていた牛丼を腹いっぱい食べた。

今日は柴犬のトク子さんと三毛猫のみつ子さんと茶トラのトラ君と一緒に風呂に入って、寝る前に受信していたメールを返して、トラ君と一緒に朝までぐっすりと寝た。

そして翌朝、いつも通りダルダルと登校した。

すると学校に近づくにつれて女子の色めき立った声があちらこちらから聞こえてきた。

噂とかあまり興味無い俺は、女子たちは朝から元気だなとか思いつつ欠伸を連発していた。

校門の所まで来ると人だかりが出来てた。

有名人でもいるのか?と思いつつ、人だかりを避けつつ学校に入ろうとしたら、後ろからガバッと抱きつかれた。

「うおっ!」

勢いがかなり良い突進をたたらを踏んで何とか倒れるのを防いだ。

「トール、おっはよ〜!」

真後ろから聞こえる甘い声。

「………はよ」

首だけ振り返って、俺の首に抱きついているヤツを見る。

「時雨、重い」

「ごめんね〜」

体重をかけられることが無くなったが、時雨は離れる気は無いらしく俺の背中にべったりとくっ付いたままだ。

「時雨はココに通ってたんだ」

「うん、そうだよ〜」

離れる気が無いらしく仕方ないのでそのまま生徒玄関に向かい、校舎に入るが時雨はまったく離れないで、俺は教室までズルズルと運んでしまった。

教室までの廊下に階段、視線の数の半端無さに辟易して、やっと教室だ、と入ればクラスメートたちの凄まじい悲鳴が響き渡った。

「朝から元気だね〜」

ほのぼのと教室の中を見ているヤツが原因だと思えるのだが、面倒なのでスルーすることにした。

ホームルームを始めるために教室に来た担任に追い出されるまで俺の側から離れなかった時雨が居なくなると、周りから質問攻めされた。

時雨のことなんてまったく知らなかった俺は、そいつらに時雨の事を聞かされた。

時雨は一つ上の学年でこの学校でも一二を争う美形なんだそうだ。
しかも時雨は不良のカテゴリーに入るヤツらしく、喧嘩は負け無しと言う伝説があったり、女は毎日とっかえひっかえで、気にくわなかったら平気で殴るヤツらしい。

とまぁ、いろんな噂を聞かされたが、俺を好き好き〜と言ってくる時雨と噂の時雨がかち合うことが無いために俺は時雨と共に行動している。

まぁ、時雨が離れてくれない事が一番の理由だが。

邪魔だと思える時が多いが、なんだかんだで俺はピンクな先輩とつるむようになった。


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