何か言われるだろうなと予想して覚悟を決めていた俺は、そのあっけなさに、ポカンだ。

生徒会長と言う雑用係を引き受けて、初めて生徒会室に足を踏み入れた時、酷い拒絶をされた。

あの武士会計でさえ、一応取り繕ってはいたが、纏っていた雰囲気は拒絶だった。

あの高圧的なものが襲い掛かってくるだろうと身構えていた手前、この何もないどころかフレンドリーに迎え入れたれた事に呆然だ。

階段で三階まで上がり、廊下の突き当たりにある扉の前に行くまでに何度かなごやかに挨拶をされた。

此処はお坊ちゃん寮だよな…?

手を引かれるまま歩いて、言われたまま靴とダウンを脱いでソファに座る。

「なに、呆然としてんだ、小野田?」

「ぅおっ!」

ぬっと目の前いっぱいにいきなり現れた堂本のカッコいい顔のドアップにビックリする。

「ナ、ナニ!?」

「さっきから何ビクついてんだよ」

「ぇう…、それはその、こんな所、初めてだし…」

「そう言うもんか? まぁとりあえず飲め」

ソファの前にあるお洒落な小さいテーブルの上にはこれまたお洒落なカップが一組、湯気を上げながらそこにいた。

コーヒーしか無い、砂糖かミルクいるか、などのやり取りを何とかやり終え、ミルクを入れたコーヒーを飲む。

苦みの中に酸味と甘みがほど良く感じられる上品な味に、こんなの飲んだら缶コーヒーが飲めなくなるなと思いつつ隣に座ってる堂本に視線をついついやる。

俺の方を見ていた堂本と視線が合った。

するとふっと軽やかに微笑まれる。

イッ、イケメンの微笑み、恐るべし!

なんつー、破壊力!

ワイルド不良系イケメンの微笑み、女じゃ無くても落ちるな、確実に!

ヤバイ、あまりのイケメン力にクラクラする…!

思い止まれ、思い止まるんだ、俺!

男にクラッとしてどうする、俺!

男子校ならではの悪習がまかり通っているとは言え、それに染まって何になる!

「こんな美味しいコーヒー飲んだの初めてだ」

「ん、気にいったか?」

や、やばい…、堂本の顔がまともに見れない…。

「うん、もうこのコーヒーの味知ったら、他の飲めなくなりそう」

不自然にならないように視線を外すためにコーヒーに口をつける。緊張して喉が渇いてるのも有るけど。

「ふっ、だったら何時でも飲みに来ればいい」

すっと出てきた堂本の手が俺の横顔にかかっていた髪をどけて耳にかけてくれた。

と言うか、今なんて言いました、この人?

「えっ!? いや、悪いし」

「どうしてだ? 気にいってくれたんだろ?」

何が問題なのかさっぱり解りませんって顔しないでっ!

「コーヒーのために旧寮に入れる訳無いし」

「ああ、そんなことか」

「そ、そんな事って…」

一番気にするところだろうが!

「2号館は代々風紀委員会の役員が入寮する所でな、風紀の仕事上、スポーツ特待生を主に出入りは、まぁ許可制だが自由だ。だから気にするな」

俺が許可を出しておいたから気兼ねなく来い、と俺の髪をいじりながらおっしゃられる堂本さん。

呆気にとられてる俺にいたずらっ子みたいな笑みを浮かべて、流れる動作で俺が持っていたカップをとってテーブルに置いてくれる。

それからしゅるりとネクタイを解いて、シャツの前を開けていく。

放課後、風紀室で見て触った、あの見事な腹筋が惜しげもなく眼前にある。

髪をいじる手は俺の背中を辿って腰に回され、もう片方の手は俺の手を取られる。

筋肉を凝視している俺の耳元で、熱い吐息が感じられると、

「来い」

逆らうなんて、考えられなかった。


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