俺の目の前に惜しげもなくさらされている肉体美。

突然、目の前にあったら、ガン見すべき肉体美じゃなくても固まるよな…。

「チッ、何だてめぇかよ。何の用だ」

いや、ビビった。

いきなり上半身だけとはいえ、裸が目の間にあったら驚くな、さすがに。

それにしてもすげぇな、あの腹筋!

「おい、何だてめぇ…」

うわぁ、腕もすげなぁ…触ってみてぇ…。

「おい…何なんだ「すげぇ…」よ…、は?」

「なぁ、ちょっとでいいからその腹筋、触らせてくんねぇ?」

もう憧れの理想の腹筋に、その持主が誰だかも確認せずに、腹筋ガン見で頼んでる俺ってヤバいヤツじゃんか…。

でもマジで憧れなんだよ…、マジで羨ましい…。

「なぁ、本当にちょっとでいいんだ! お願いだから触らして!」

そいつにずずいと近寄って拝む勢いって言うか、拝み倒してみる。

「…ぁあ、別に…かまわない…」

「へへ、ありがとな! じゃ触るな〜!」

もうドキドキで、そっと手を伸ばしてみる。

「ぉお、硬い…」

すげぇ、すげぇって子供みたいにはしゃぎながら理想の腹筋を堪能する。

羨ましくて仕方ないが、理想が在るんだと解っただけでなんか嬉しい。

ちゃんと硬いけど柔軟さがあるのが良くわかる。

ボディービルダーのマッチョは盛り過ぎて気持ち悪いから嫌いだけど、スポーツ選手の実践的な筋肉、アレが好きで理想だ。

目の前にある筋肉は正しく俺の好きで理想の筋肉、俺に無い物。

羨ましい…、マジで…。

「おい、もういいか。いい加減、寒い…」

「あっ、悪い。ちょっとだけだって言ったのに…」

やっと腹筋から顔を見ると、いつもは自信あふれてるイケメンの堂本が困惑してますってお顔で俺の事見てた。

ちなみにフルネームは堂本龍臣さんとおっしゃっられ、この学校では風紀委員会の委員長をなさってございます。

やらかした、俺…。

「あ、いや、その、俺、筋トレしてもぜんぜんまったく筋肉つかないんだよ! だからその綺麗に割れた筋肉見てつい! いや、その、何言ってんだよ俺!」

犬猿の仲になってる風紀委員会の委員長に何馴れ馴れしく、しかも筋肉触らせて欲しいなんて変態行為してんだよ、俺!

「落ち着け、小野田」

「え、あぁ、うん…落ち着け? 落ち着け…」

とは言ってるものの、落ち着けるはずもない俺…。

「小野田は何で此処に来たんだ?」

「えっと、あ〜? そだ、書類!」

「書類?」

「渡しそびれた書類が一枚あって、それで届けに…」

「で、丁度着替えてた俺が此処にいたってわけな…」

「つい…、理想だったもので…、ごめっ、その、俺…」

だからって変態行為は許されないだろ。

「アー、落ち込むなよ。別に減るもんでもねぇんだからな、触りたいんなら何時でも触らせてやるよ」

「……………えっ!?」

今、堂本さんは何と仰いました?

机の上の物を物色して何か書いた堂本が俺に一枚のメモ紙を差し出している。

「……?」

「触りたくなったらココに連絡入れろ。都合がつけば触らせてやる」

持っていた書類を取られ、代わりにメモ紙を持たされる。

ささっとシャツを羽織ってボタンを数個止めて学校指定のブレザーの袖を通し終えた堂本から機械音が流れた。

機械音が流れる端末を覗きこんで操作し終わると俺の頭にポンポン…。

「悪いが、風紀の方で呼ばれてんだ」

「ぁ、…」

「電話でもメールでもいい、夜にでも連絡して来いよ」

俺が開けたままでいたドアから俺と一緒に出た堂本は、俺の頭をまたポンポンして、気をつけて帰れよって言って颯爽と絨毯敷きの廊下を歩き去っていった。

固まって動けなくなるのは仕方ないよな…?


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