「おっそい…」
あれから二時間。
もう辺りはほんのり暗くなってきていた。
綱吉が来ないという現実に私は頭を抱える。
どうしよう、約束の日は今日のはずだ。そういえば時間の指定はなかった…でもこの前会った時間にきたはずだし、綱吉もおそらくそのつもりで言ったのだろう。まさか彼に限って騙すなんてこと、ないとは思いたいが人はどう変わるかわからないものである。それが例え幼馴染だとしても。
綱吉が来ないと私今日どうすんのよ!!今からホテルとれるかしら?もう最悪野宿!?…それだけは避けたい。
店の主人なんて中々待ち人が来ない私に気を使ってコーヒーやケーキのお代わりを持ってきてくれた。主人に気を遣わせてしまって申し訳なく思うのと同時になんだか惨めな気持ちになった。綱吉の馬鹿、ばか…また約束守ってくれないの…?
目頭がつん、と熱くなるのを感じて思わず涙がこぼれそうなのを誤魔化すように顔を上げるとそこにはドアから息を切らした綱吉がこちらを見ていた。
「名前、ごめん!…泣いてた?」
なんて言われて恥ずかしさが勝り涙なんか引っ込んでしまった。
「つなよしのばか」
「ごめん、ごめんな。仕事が片付かなくてさ」
その言葉に私は本来の目的を思い出した。
そうだ、仕事…!彼は一体何の仕事をしているのだろうか。
でもおそらく住み込みっていうくらいなのだから家政婦とかかな?
「別にもういいし…でもコーヒー代は奢って貰う」
「本当にごめん!喜んで払わせて頂きます!」
「ふふ」
「あ」
「なにさ」
「やっと笑った」
言われて初めて気づいた。そっか、私彼の前で笑えてなかったのか。
でもそれは綱吉のせいだって、鈍感な君は気づいているのかな。
「笑うよ、私だって」
「うん、なんか久々に見たなって思って」
「…それは、沢田のせいじゃん」
「…うん」
思い当たる節があるのか綱吉は少し寂しそうに笑った。
「綱吉って、呼んでよ。さっきみたいに」
「さっき…?」
ああそういえば勢い余ってそう呼んでしまった気がする。
でも、今更下の名前で呼ぶなんて、ちょっと悔しいじゃないか。あの頃急に苗字で呼び出して、私が涙を流すほど切なくなったことなんて知らないくせに。私を置いていったくせに。
「やだ」
「そっ、か。うん、まあいずれね」
「なに小声でぶつぶつ言ってんのよ、それよりもう私家も仕事もないんだけど」
「働いてくれるの!?」
「仕事次第でね」
なーんて言っちゃってるけどもうそんな余裕ありません。
住み込みで働く気満々である。
「そっか、よろしくね名前」
そういった彼の表情は嬉々として笑っていて、その笑顔の中には強い覚悟があったことを私は気がつかなかった。