「せっかくだから、一緒にどう?」
未だに席に着こうとしない沢田に私は痺れを切らしつい席に誘ってしまった。
なんだかんだ言っても私はまだ彼が好きなのかもしれない。未練たらしいのにも程があるだろう、私。でも誘ってしまったものはしょうがない。今更やっぱり無理、なんて言えやしないのだから。
「名前はよくここへ来るの?」
「いいえ、今日たまたまここを見つけたの。沢田は?」
「俺はよく仕事さぼっ、合間にね」
「…相変わらずダメツナなのね」
「ははは、厳しいな」
そういって柔らかく笑う彼は前よりずっとしかっりしているように見えた。
本当はもうダメツナなんかじゃない、私の知っている彼じゃないことなんて薄々感じていたのだ。沢田が遠くに行ってしまったようで少し寂しい、なんて感じるのはやはりずるいのだろう。
私も、彼から逃げたのだ。
変わっていく彼に置いていかれるような気がして、怖くて、寂しくて。
「名前…?」
「ん、なあに」
「なにか、悩んでる?」
「え」
そんなにぼー、っとしていたのだろうか。沢田に心配されてしまった。
目の前には心から心配していますとでも言いたげな不安そうな彼の顔があって、そんなところは変わってないな、なんて部分を見つけて少し安心した。
「悩んでは、ないけど」
「嘘。何かあるんでしょ」
右手で首を触るの、名前の癖だよ。
なんて。自分でも今まで気がつかなかった。
「初めて知った…」
「小さい頃から変わらないね、名前は。それで、なにがあったの?」
綱吉は変わったね。
そんな言葉を飲み込んで私は沢田なら言っても大丈夫だろうと思い、身の上話をした。
正直他の人には心配をかけさせてしまうからあまり話したくはなかったのだけど、私はつい幼馴染に甘えてしまうのだ。
「ということなんだけどね」
「ええっ!?それって結構大変なことだよ!?」
「そうなんだよね、今困ってる」
「うーん…名前さあ、よかったら住み込みで家で働かない?」
は?
何を言っているのかこの男は。
まさかほんの十年そこらでそんな人を雇える身分にまでなったというのか。
あの、綱吉が?
思考回路がこんがらがってきた頃に、先程の男性がケーキ片手に戻ってきて、それを見た沢田はまた三日後に来るから決めといて。といい残し店を出て行った。
私はそれを口をあけて見送ることしかできなかった。
ていうか、なにも頼まなくていいのかあいつ。